29
『怪我って…別にこの程度なら問題ないわよ?』
「どう見ても"この程度"ってレベルじゃないでしょ!どうやったらこんなに傷だらけになるのかしら…」
こてりと首を横に傾げるアリスの姿はどう見ても10歳年上の女性には見えない
『色々と……でも大丈夫。悪魔の実のおかげで治癒力も抜群にいいの。数日もすればこの程度の傷は跡形もなくなるわ』
全くの健康状態の時に悪魔の実を食べたのが不幸中の幸いだった
"ワカワカの実"はその口にした瞬間の状態をキープする、という能力を得るわけで、その時に風邪をひいていたら一生風邪をひいたままで生きなければならないのだ
一歩間違えればとんでもないことになっていた
「でも一回チョッパーに診てもらったほうがいいぜ?アリスちゃん」
『チョッパー…あの船医さんよね。んー……みんながそこまで言うなら……』
サンジにまで言われ、渋々アリスは首を縦に振る
ここ暫くは一人で航海していたせいか、こうやって誰かに心配してもらうなんて久しぶりすぎて少し戸惑ってしまう
シャンクスの船にいた時も無茶ばかりして皆に怒られていたのは懐かしい想い出だ
『彼が…ウソップが目覚めた後、時間があれば診て貰う。それでいいでしょう?』
まだチョッパーはウソップの治療にあたっていてとてもじゃないが他人の怪我まで診る余裕はないだろう
皆でウソップの治療を終わるのを待つことになり、数十分が経った後――
「お――い!ウソップが目を覚ましたぞ!!」
ずっと治療にあたっていたチョッパーが部屋から出てきて言った言葉に皆は安心したように顔を緩める
そんな中、サンジだけは街の方角を見たまま、浮かない顔をしていた
『サンジくん?』
それに気づいたアリスが問いかけると、煙草を口にくわえたまま肩をすくめる
「いや……ロビンちゃんが帰らねェなと思って……」
『ロビンが……?』
そういえば、せっかく会いにきたというのにまだ1回も顔を合わせていない
もう20年以上も会ってない、懐かしき友人
そして…………
『…早く帰ってくるといいわね』
ただ穏やかな笑みを浮かべる彼女の脳裏に、"あの惨状"が浮かんでいることなど誰も気づかないだろう――それぐらい、完璧に隠し通していた
.
[ 30/145 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]