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何言ってんだ、みたいな目で見られているのは無視してそっと彼の頬に触れる
戦うことを知らないような白くて細い手だ
『あんまりこの力を使うとシャンクスが怒るんだけど…今彼はいないからいいわよね、別に』
独り言のように小さく呟くと…頬に触れている手が、突然淡く光り出した
ビックリして声も出ないウソップだったが、徐々に怪我の痛みが引いていってることに気づく
「なんだ……」
『あんまりやりすぎると困るから……これぐらいが限度ね』
光がおさまり、頬に触れていた手が離れていった時には動ける程度には怪我が治されていた
「これ…」
『さぁ、早く行ったほうがいいわよ?ナミがあなた達の仲間を連れてくる前に…あなたの気がすむように』
ナミには見張っていると言ったが、自分にその権利はもうない
ウソップの真剣な瞳を見て、自分に止めることができないと分かってしまったから
だから自分にできることは、死なないように少しだけ彼の負担を"受け取って"あげること
アリスが自分を引き留めないことを訝しげに見ていたウソップだったが、彼女の言葉に嘘がないことを感じ取りゆっくりとその場から歩き出す
「すまねェ……!!」
『いいのよ、若い人は迷惑をかけたって』
ポタポタと血が流れていくが、歩けないことはない
ナミが行っていたフランキー一家のアジトに向かって、ウソップはゆっくりと進んでいく
それを見送っていたアリスだったが……彼の姿が完全に見えなくなった頃、足の力が抜けてしまったかのようにその場にしゃがみこんだ
『はぁ、はぁ……っやっぱり、キツいわね…』
少し頑張りすぎてしまったようだ
こういう時全身をすっぽり覆うローブを羽織っていて良かったと思う
いくら治癒力があがっていると言っても、"他人の怪我を自分に移す"というのは負担が大きい
あがる呼吸をなんとか抑え、壁に背を預けながらゆっくりと立ち上がる
ここには彼の仲間が来ると言っているのだ。これ以上ここにいても仕方がない
『はは…らしくないこと、しちゃったわ…』
私は"追われる身"だというのに…
歩き出そうとした足が力を失い、そのまま崩れ落ちてしまう
――"これぐらい"の怪我なら…目が覚めた頃には動けるようになっているはず
沈みゆく思考の中、冷静に怪我の度合いを判断した後――ゆっくりと、瞳を閉じた
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