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「アリス!?」
手に握られているのは、一丁の銃
隻眼の瞳で、真っ直ぐに見つめる先にいるのは、スパンダム
ロビンの声に振り向くこともせず、引き金に指を添える
『色々好き勝手やってくれたお礼、まさかあの程度だと思ってないわよね?』
虫も殺せないような、そんな優しげな笑みを浮かべ―――躊躇なく、その引き金を引いた
母親から譲り受けた一族に伝わる銃が吐き出すのは弾丸ではなく、超圧縮された"風"
それは普通の弾丸ではまず届かないような距離だろうと、関係ない
"風"は、スパンダムの真横を通り抜け――マストへと命中した
その衝撃に耐えきれず、マストは根元から折れ――船体へと突き刺さる
『ふふ、私からはそれで勘弁してあげる』
パニック状態に陥っている軍艦の様子を楽しげに見て笑っているアリスを、それはもう恐ろしいものを見たかのような目で見つめるクルーたち
虫も殺せないような笑みを浮かべて、軍艦一隻を戦闘不能……
絶対に何があってもこの人だけは怒らせないようにしよう、とクルーの心が通じ合う
「!」
慌てふためいているスパンダムの体から何本も手が生える
そう、ロビンの能力だ
「ちょ…や、やめ……」
助けて…、情けない声で許しを請うスパンダムの声に耳を貸すはずもない
「――"クラッチ"!」
ボキッと痛々しい音を立て、スパンダムの体が無理やり折り曲げられた
背骨が折れたのは間違いないだろう
上司の痛々しい姿に動揺を隠せない海軍を尻目に、ナミはフランキーに合図を送る
その間に軍艦が進路を阻もうと進行方向に立ちふさがろうとしている
「ちょっと船体にゃこたえるが……」
"風来砲"によって船が空を飛び、軍艦と軍艦の間をすり抜ける
ウソップが煙幕を巻き、ナミが荒れる海を航海する
あっという間に小さな船はこの海域を抜け、やがて見えなくなった
「――まだ追いますので!とてもこのままでは終われない!!」
「…もういい。この艦隊と島を見ればもはや一目瞭然……――この一件は、」
我々の完敗だ
一味が消えた方向を見ながら、大将"青キジ"は静かに呟いた
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