紅の魔女 | ナノ
113
『―――なんで…』
あの頃の私は、自分でもハッキリ分かるぐらい余裕がなかった
火を見ただけでパニック状態になって暴れまわり、そのせいで傷も治らず…ずっと、白いベットに拘束されていた
そんな私の傍に、出来る限りシャンクスはいてくれた
「どうした?」
どんなに暴れても、どんなに酷いことを口にしても、彼は何も言わずにただ抱きしめてくれた
7歳しか違わない、自分より少しだけ大人なシャンクスのその優しさが―――本当に、恐かった
『なんで、あなたは私の傍にずっといるの…?』
「なんでって言われてもなァ……俺はお前を気にいったから、だな」
まだ"赤髪のシャンクス"として名を上げ始めた頃で…船も大きくはなかったし、仲間だってそんなに多くはなかった頃
『………やめて…っ』
「…?どうしたんだ、急に」
―――そんな、優しい目で私を見ないで…!
『私に、優しくしないで…関わらないで…っ!ちゃんと、次の島で降りるから…あなた達に迷惑はかけないようにするから…お願いだから、私にもう……っ!!』
「お、おい落ちつけ!」
『私はここにいていい人間じゃない…!私がいたら、また人が死んじゃう…っ!みんなが、私のせいで……っ』
恐くて恐くて仕方がなかった
優しくされてるこの人に、いつか邪魔だと…重荷に思われるであろう未来が
カディアの島民たちのように、オハラの考古学者たちのように―――母のように、消えてしまうことが恐ろしくて仕方がなかった
ただ泣き喚く私を、シャンクスは何も言わずに…強く、抱きしめた
その人の温かさに一層恐怖を抱き、ただその腕の中から逃げようと暴れるが彼の腕が離れることはなかった
「落ちつけ」
そのたった一言が、荒だっていた心にすとんと染み込んでくる
「俺は…俺たちはそう簡単に死なねェよ。お前が何に怯え、何に恐怖しているのか分からねェが…俺が、ちゃんと守ってやるから」
『……む、りよ…私は、』
「無理じゃねェ……ユリアさんの代わりに、俺がお前を守っていく」
思わぬところで出た母の名前に、反射的にシャンクスの顔を見上げる
「お前が一人で立てるその日まで……ずっと、傍にいてやるから」
だから、もう泣くな
その言葉が胸に染み込んで――――初めて、自分からシャンクスに手をのばして、その胸で思いっきり涙を流した
泣いて泣いて…枯れ果てるぐらい涙を流して、泣き疲れてそのまま眠ってしまって
次の日、思いっきり腫れてしまった目を見て大笑いしたシャンクスを思いっきり殴ったのは…今となってはいい思い出だろう
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