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1番最初に気づいたのは、その戦闘の傍観者だったロビンであっただろう
身も凍るような冷気と、触れれば斬られそうな強風が支配する中、それは突然やってきた
「あ…」
それは、偶然に偶然が重なったもの
本来ならあり得ない偶然が、この時この瞬間、この場所で起こってしまった
一隻の軍艦から吐き出された一つの大砲
それは風にあおられ、凄いスピードでとあるポイントへと落ちていった
『―――っ!?』
そう……驚きで目を見開いた、アリスのもとへ
ドガァンッ「アリス――――っ!!!」
強い爆風が吹き荒れる
さすがのクザンもこの結末は予想していなかったようで、驚愕の表情を浮かべて少女がつい数秒までいた場所を見つめていた
もう、風は吹いていない
「……バカが…っ」
クザンは、少女の命まで奪うつもりはなかった
今この場で捕らえ、適切な場所に連れていく……それが例え少女にとっては牢獄でしかなくても、だ
黒い煙が消え去った後には…黒く焼けた大地と荒く波打つ海だけで―――赤髪の少女の姿は、どこにもなかった
「う…うそ…アリス……っ」
確かに、大砲の弾は彼女のいた場所に墜ちた
多少の誤差はあるとしても……何もなかった、とはとても思えない
「………」
クザンは少女がいた場所を数秒見つめた後、何事もなかったかのようにその場所に背を向けた
視線はもう、いまだ暴れているサウロへと向けられている
「……この程度で死んだってなら、その程度の女だってことだ…"ウィザー"の血を受け継ぐ"魔女"さんよ…」
氷の塊をサウロ目がけて飛ばしながら――クザンが小さく呟いたことは誰も知らないだろう
この日、"オハラ"は滅びた
たった一人の子供を除いて……オハラの考古学者達は皆命を落とした
そしてこの日、滅びゆく"オハラ"から姿を消した少女
多くの人間は"魔女"が死んだという新聞の記事を信じた
だが――"魔女"を良く知る者と、"少女"を良く知る者らはそれを否定した
状況証拠が揃い、誰もが"魔女"の死を疑わなかったというのに、彼らは否定の言葉を口にする
だからこそ、既に発行されていた手配書は取り下げられなかった
死んだと思われていた少女が、その日大怪我を負いながらも何とか一命を取り留めていて
運命という名の偶然によって"シャンクス"の元に辿りついていて
―――赤髪の船員として、その名を再び世間に響かせたのは……この日から幾つもの年月が通り過ぎた後だった
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