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「母親に負けず劣らずの"風"だ…その年でもうユリアを超えたか」
『クザン…ッ!!!』
1日だって忘れたことはなかった
あの日も、丸いサングラス越しにアリスを見下ろしていたのだから
「"悪魔の実の能力"を使わずしてもここまでの戦闘能力…政府が危険視するはずだ」
『……!!』
胸の奥から際限なく湧き出てくる憎しみ、そして殺意
今の自分ではまだこの男を殺すことができないと理解している分、苦しくて苦しくて堪らない
今すぐにでも母の仇討ちをしたいというのに―――!!
「代を重ねる程にその力は増していく…お前の代でその血の系譜に終止符を打っておかないと、世界は大変なことになる」
『うるさい…!!お前たちは私達のこと何も知らないくせに……!!』
サウロはまだこの男がこの場に現れたことには気づいていない
「知らないことはないさ…"悪魔の血"を受け継ぐ、呪われた魔女の一族。生まれた時から紅の十字架を背負う、"生まれてきてはいけなかった"罪人」
『違う!!私達は罪人なんかじゃない!』
彼女の感情の高ぶりに呼応するように、風が強く吹き荒れる
「…立場が変われば正義も変わる。おれ達にとってはお前達一族は"罪"だ」
周囲の温度が下がる
その変化を肌で感じ取り、アリスもまた周囲に風を集める
まだこの男に勝つ事ができない今、最優先されるのはここから逃げること
たとえ10年20年という年月がかかろうと…この男たちを殺すためなら、どんなことだってできる
「逃げるつもりか?」
『……』
―――そして、それは唐突に始まった
少女の命令に従って巻き上がった風によって吹き飛ばされた木々は、真っ直ぐ男に向かって飛ばされる
しかしそれらは男に当たる直前、一つ残らず氷漬けにされて地面に落とされた
それを見届けることなく、少女は海へ向かって駆けだしており、男が木々を凍らせた時にはもう少女は海のすぐ近くにいた
1年前と同じように、海へと逃げ込むつもりだと分かった男はすぐに少女を追いかけ、冷気で海を凍らせて逃げ場を奪おうとした
少女が海へ飛び込むのが先か、男が海を凍らせるのが先か―――そのデットヒートは、思いもよらない形で幕を閉じることとなる
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