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『"風刃(ウィンド・エッジ)"』
一言、彼女が呟いた瞬間…風がうねりをあげた
風は主の意志に従い、操られ、そして――敵対者に牙をむく
彼女を中心にして風が巻き上がり、いくつもの鋭利や刃となってそれは男たちの体を傷つけた
「う…っ!!」
一切の躊躇のない攻撃
何百本もの短剣を勢いよく投げられたように、黒服たちの体を切り裂く
それは一瞬の出来事だった
「お…おいおいおい!何だよそりゃァ!!てめェ悪魔の実の能力者か!?」
一瞬で自分の部下2人を倒され、長官は狼狽する
たかが10歳の子供、それも少女に部下を倒されて驚かないわけがない
彼女自身が呼び起こした風によって、左目を覆っていた眼帯が切れてその左目が露わになる
右目と同じ漆黒の瞳――だが、隠されていた左目には普通ではありえないものが存在していた
「あ…赤い、十字架…!?」
漆黒の中にはっきりと浮かび上がっているのは、赤い十字架
その普通ではあり得ないモノを持つ彼女は、とても10歳の少女とは思えない…酷く大人びた笑みを浮かべた
『私達に"バスターコール"をかけた中将に聞いてないの?"カディア"と海兵数百人を犠牲にしてでも殺しておきたかった、"悪魔の血"をひく女の話を』
風によって地面が抉られ、撃ちこまれる砲弾以上の傷跡を大地に残す
だがすぐ近くにいるロビンたちには、その脅威を全く受けることはない
彼女によって護られている――それは紛れもない事実だった
「ひ……っ」
その異形とさえ言える少女を前に、スパンダインができたのはただひたすら逃げることだけだった
背中を見せ、憐れとさえ思える程必死にここから逃げようとするその姿に、アリスは小さく眉をひそめる
『……逃がさない…』
躊躇なく、風の刃を作り出そうとするが――それは、途中で霧散する
『……っ、…』
何ごとかと視線を移ろわせたロビンの視界に、苦しげな表情を浮かべて左目を強く押さえているアリスが映った
「アリスっ!!」
突然止まった攻撃に、スパンダインは驚きつつも好機とばかりに凄い勢いで逃げていった
今の彼の頭の中には自分の命を守ることで一杯で、オルビアを連行することもすっかり忘れているに違いない
「大丈夫、アリス…!」
『う…ん…っ、私の、ことは…いいから……っ』
駆け寄ってきたロビンを、優しくアリスは突き飛ばす
激痛に必死に耐えながら、ぎこちない笑みを浮かべ……そっと押しだしたのは、彼女の母親のいる場所だった
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