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走り去っていったオルビア
ざわつく研究室だったが、彼女の意志をくみ追いかけることはしなかった
「アリス、あなたはこれを…」
『これを?』
手渡されたのは、フードのついたパーカーだった
メンズもののようで、着てみると少しばかりサイズが大きかった
「フードをちゃんとかぶって……うん、これなら顔もよく見えないから政府の人間も気づかないはずよ」
『あ…』
半分忘れていたが、一応今の自分は賞金首だ
写真のない手配書とはいえ、用心はするに越したことはないだろう
パーカーをくれた女性に礼を言い、急いで部屋に戻る
すぐにここには政府の人間が来るはず……いつでもこの島から出られるように準備だけはしておかなければならない
『ハァ、ハァ、…っ』
ここオハラに来てからは一度も握ったことがなかった、自身の武器を手に取る
父から譲り受けた、業物である刀"紅"と……母から受け継いだ、一丁の銃"スザク"
身長の都合上、刀は背中に背負うようにしてくくりつけて銃は腰におさめる
他の荷物は何もいらない
部屋から出る前、最後に振り返って自分が1年過ごした空間を見回す
『……』
広いとは言えなく、雑然とした部屋だったが……初めて、心から休めることができた大切な空間だった
もう、この部屋に戻ってくることはないだろう
今回の政府の調査をオハラが例え乗り越えたとしても――アリスは、出発しなければならない
『………クローバー博士』
「アリスか…」
みんなのいる部屋へと向かい、恩人の名前を口にする
「お前は我々に構うことなく逃げればいい。お前は"歴史の証人"なんだ…我々のためを思うなら、逆に生き延びるために逃げるんだ」
『…、私……』
博士の言葉と、周囲からの視線に何かを言おうと開かれたアリスの口は、勢いよく開けられた扉の音のせいで何かを発することはなかった
「――博士っ!!」
バンッ
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