紅の魔女 | ナノ




98


6年前、オハラから出航した"歴史の本文"の探索チームの一員だったオルビアだったが、彼女を除く33名は殺され彼女自身もまた軍に一時期拘束されていた

その探索チームがここオハラの人間だと割り出した政府は、しっぽを掴んだと確信しており、この機会を逃すような真似はしないだろう

それはここにいる学者たち全員がよく理解している

しかし逃げてというオルビアの言葉に頷く人間は誰もいなかった


「オルビア…わしはこの"人類の財産"を置いて逃げ出す事はできん…!!わかっておろう…」


クローバーの言葉に皆頷く


「政府は何をするつもりかわからねェが、我々がここから逃げていたら、ここにある大切な歴史を守れねェ」


「その通りだ。だがそれよりも………気になっておる事があるじゃろう、オルビア」


その言葉に、オルビアは俯く


「………、でも…会うわけには…」


『……ロビンの、お母さんなのですか…?』


その横顔がやはりロビンとダブり、半分確信しつつもその疑問を口にしたアリス

オルビアはその声で、初めてアリスの存在に気づく


「……あなたは?」


「おぉそうか、お前とは初対面か…。この娘はアリス。ウィザー・D・アリスじゃ。お前も名前ぐらいは知っておろう。そしてアリス、こいつはニコ・オルビアでお前さんの考えてる通りロビンの母親じゃ」


「…"ウィザー"…!!あなたが"カディアの災厄"を引き起こしたあの…!?」


驚きで目を見張るオルビアに、アリスは苦い笑みをこぼす


『…カディアを滅ぼしたのは私でもウィザー・D・ユリア…母でもなく、海軍です。1年前にここオハラに辿りつき、今は博士たちの好意に甘えてここに匿ってもらってます…』


その表情を見て、自分が酷い言葉を言ってしまったことに気づき、オルビアは謝罪の言葉を口にする


「……ごめんなさい、酷い言葉を言ってしまったわ。新聞に書かれてた情報を鵜呑みにしてしまって…」


『いいえ、いいんです。世間では私は"悪魔"そのものだって言われてるの、知ってますから』


新聞は毎日欠かすことなく隅から隅まで読んでいたから自分のイメージが悪いことぐらいよく分かっている

"カディアの災厄"を引き起こした、子供の姿をした血も涙もない"悪魔"――これ以外にも、これよりも酷く書かれた記事だっていくつも見てきた


『ロビンとは親しくしてもらってます。……会われないんですか?』


「……元気ならいいの。この道に一度踏み込んだからには断ち切らなきゃ…彼女を"罪人の娘"にするわけにはいかないから」


オルビアの表情は、オハラの考古学者としての顔ではなく……"母親"、そのものだった

アリスをずっと守ってくれた、ユリアと同じ顔――覚悟を決めた、母親の顔だ


「全員!!いいわね…!私とみんなは仲間でもなければ知り合いでもないっ!これを頭においておいて――何が起きても!!」


銃を持ち、部屋から出ていくオルビアを、止めることなど誰もできなかった

.

[ 99/145 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -