悲しき詩 | ナノ




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「"江戸接続"?なんですかソレ」


「いいから言え。タリーな…それで外に出られんだからよ」


ピアノ用の椅子に座り偉そうに指示するクロスにブツブツ文句を言いながらもアレンは言われた通りピアノの鍵盤に触れる


「ほ、本船の"江戸接続"を解除。方舟よ、ゲートを開いてくれ…」


――開くゲートの先は……江戸の、ブックマンらがいる江戸の上空だ

消えたはずの白い方舟が再び現れ、中から仲間たちの無事な姿を見て驚き、喜び、そして涙するエクソシストたち


『………』


自分の無事を喜んでくれる"仲間"はそこにはいないと分かっていた愛結はその光景を遠くから見たあと、輪には加わらず方舟内の一つの扉の前に立っていた

目は虚ろで生気は見えず、気を抜けば崩れ落ちそうになる体を無理やり動かし、ゆっくりとした動作でドアノブに手を伸ばす

小さく何かを呟き……ドアノブを握り、ゆっくりと回す

ガチャリと音と共にゆっくりと開かれようとしたドアだったが――それは中途半端に開いたところで、唐突に止められた

ほんの少しだけ開けられたドアから漏れる光は、どこか温かくて…目を細め、寂しげな笑みを浮かべる

まるで、この扉の先に行く資格がないとばかりに、諦めた者の笑み


「―――愛結」


呼ばれ、緩慢な動作で後ろを振り返る


「、お前…」


『行きましょう、クロス元帥』


目があったクロスは何かを言いかけるが、それを遮るように言葉を重ね――笑みを、作った



方舟は一度アジア支部に立ち寄った後、本部に戻ることとなったようだ

教団へ繋がった扉を最後にくぐり、久しぶりに教団へと帰ってきたと実感する

オカエリナサイと口々に歓迎されるアレンたちを、傍観者の立ち位置でぼーっと見つめる

ここで自分が歓迎されない異端者であることは身に染みて理解している

現に、何故お前がここにと言いたげな視線が多く突き刺さる

ミランダによって止められていた時間を戻され、次々と倒れているアレンたちをよそに1人変わらず立ち続けている姿を見て、それらはより顕著となった


『……わたしは、だいじょうぶ…』


何か言いたげなクロスの言葉を拒絶すると、そのままゆっくりと悪意の中を歩いて行く

ツナたちはエクソシストだ。教団側も彼らを蔑ろにすることはないと確信をもっているから心配はしていない

わたしは一番最後でいい

人気がない廊下をただひたすら歩いていたが、唐突にずるずると壁に寄りかかって座り込んだ

ずっと、ずっと握りしめていた篝火が、音を立てて地面に落ちた

壁に背中を預け、世界が急速に滲んでいくのをただぼんやりと認識した


『ふ…っう…』


押し殺した、泣き声

どうして涙が溢れるのか分からない。嬉しいのか、悲しいのか、安堵したのかさえ

祝福ムードに満ち溢れている教団の中―――少女は一人、冷たい廊下で泣きじゃくっていた




誰にも見せない涙
(ハッピーエンドなんかじゃ、なかった)


(簡単なあとがき)
方舟編終了しました。
普通ならここでメデタシ、となる場面ですがヒロインの場合それは違います。
みんなにとって幸せな結末も、彼女にとっては違いますよね。
彼を失い、敵の多い場所に戻ってきて嬉しいわけではないです。
長い文章読んで下さりありがとうございました。
誤字脱字不可解な点等ありましたらご連絡頂ければと思います。
(2010.02.26 公開)
(2017.03.05 全編改編) あや


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