悲しき詩 | ナノ




161


少し空気が柔らかくなった頃、ギィィと扉が開かれた


「師匠!怪我人連れてきました!」


「クロちゃん重いさ…」


「チッ…なんで俺がこんなこと……」


言いたいことを好き勝手言いながら入ってきたのはアレンたちで、途端部屋の中が賑やかになる

アレンと神田に抱きかかえられてる2人を見て、愛結は自分の怪我も忘れて思わず立ち上がる


『ツナ、クローム…っ!』


意識のない状態の2人を見て最悪の予想が脳裏を巡り泣きそうになっている愛結に、アレンは慌てて説明する


「大丈夫ですから!ツナの傷口は簡単にですが止血してますし、クロームは眠っているだけで2人とも生きてます!2人よりも愛結のほうがよっぽど重傷ですから動かないで寝ててください!」


『で、でも…』


一つしかないソファを自分だけが利用することに抵抗を示す愛結

リナリーらの目が気になったという部分もあるのだが……そんな躊躇う愛結の手を強引にひいたのはクロスだった


「この中でお前が一番傷が深いんだ、大人しく寝てろ。他の奴らは床で十分だ」


その有無を言わせない言葉に、愛結は渋々、ソファに腰を落とした

ラビがいまだ目覚めぬクロウリーを横たわらせたのを見て、リナリーは痛々しげに表情を曇らせる

同じようにツナとクロームも床に寝かせられ、一番後ろにいたチャオジーもまた担いでいた人らを降ろした

ほぼ無傷の状態で眠っているユミと……もう息をすることのないシルフを

つい先程どこからともなく現れたイノセンスの適合者となり、怪力を手にした今のチャオジーにとって2人を担ぐことぐらい朝飯前だ


『………、』


自らの手で殺してしまった事実を言い訳するつもりはないが、やはり気は重くなる

そっと視線を逸らす愛結


「ソイツも持ってきたのか」


「……、一応仲間だったので…」


呆れたようなクロスの言葉に、アレンは曖昧に言葉を濁す

ラビらが強く希望したから連れてきたのだが……


『―――なかま…』


あれだけ明確に敵対意志を見せ彼らに刃を向けたというのに、それでも彼らの中ではシルフは"仲間"なのか

ずきりと頭に鋭い痛みがはしり愛結はコメカミに手をあてる


「一応じゃないしアレン!確かにシルフは俺らに武器を向けた…けど、何か理由があったのかもしれないだろ?」


「ユミが可哀想だわ…教団に帰ったらちゃんと弔ってあげましょう…」


「――そう、ですね…」


盲目的なそれは、恐怖すら感じるものだった

クロスもそのやり取りにピクリと眉を動かすが、口出しすることはなかった


『………、う…っ』


小さく、押し殺した呻き声が愛結から漏れた

それを聞こえたのは一番近くにいたクロスだけだろう――ちらりと視線を向けると、苦しげに顔を歪ませた愛結と目が合う


「おい、」


『、だいじょ、ぶだから…』


まだだいじょうぶだから――まだ傷は戻ってこないから、まだ動くことはできるから

伏せられた言葉まで読み取ったクロスは小さく舌打ちをこぼす

一番傷が浅いように見えて、その体の下にどれだけのキズを抱えているのか――苦しいだろうに、それでも小さく笑みを作る愛結


「――アレン。この舟を動かせ」


今は先に進むしかない

――進むことしか、できなかった







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