悲しき詩 | ナノ




156



「愛結!?」


『っいいから!弾いて…!』


指を止めたアレンに続けるよう言うが、その顔色は歌う前より確実に悪くなっている

口許についた血液を乱暴に袖で拭うが…力ある言葉を使って歌ったのだ、その負荷は計り知れない


『う…っ』


カクンと膝が折れ、倒れそうになった愛結を慌てて支える


「もう無理ですよ、その体じゃ…!」


『おねがい…っひいて…!』


アレンの服を強く握りしめて懇願するその表情は鬼気迫るといっても過言ではなく、アレンは息をのむ

すでに意識は混濁しているのか、壊れたレコードのようにずっと"弾いて"と繰り返す愛結

その体を抱きしめたまま、どうすればいいのか悩んでいると一旦は途絶えた通信機が雑音と共にまた繋がった


[方舟を操れアレン!お前の望みを込めて弾けっ!!]


「のっ望み!?」


[愛結が歌えない以上お前が1人でやるしかない!早くしろっ!!]


【望メ】


どくん


「望みはっ…転…送を、方舟を…っ」


急かされて出てきた言葉は"望み"とは少し違うと分かっていたが、それ以上言葉が出てこない

どうすればいいのか分からず、愛結を支える手に力が込められたが―――ふいに、コムイの言葉を思い出した


 ――思いつかないかい?まずは"おかえり"といって肩をたたくんだ


それは他愛もない会話で、でもとても大事なもので――愛結をそっと床に寝かせたアレンは、再び鍵盤に触れた


 で、リナリーを思いっきり抱きしめる!アレンくんにはご飯をたくさん食べさせてあげなきゃね


何気ない、些細な幸せ。だが―――


 ラビはその辺で寝ちゃうだろうから、毛布をかけてあげないと


 大人組はワインで乾杯したいね


 ドンチャン騒いで眠ってしまえたら最高だね


 そして少し遅れて神田くんが仏頂面で入ってくるんだ――…


――それは、戦える理由でもあった


『ア、レン…弾いて…っ』


守りたい人がいる

ただひたすらピアノを弾いていたアレンは、唐突に鍵盤に思いっきり手を叩きつけた


バァーン!


「消えるな方舟ぇぇぇぇ!!!」


――それは、消滅しかけていた方舟が、鮮やかに息を吹き返した瞬間だった




願いをのせて
(音と詩のハーモニー)


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