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『………さぁ、アレン。奏でましょう?』
くるりと振り返った愛結はいつものように笑っていて……それは、先程の泣きそうな声は嘘だと感じてしまう程で
戸惑うアレンの手を引いて、ピアノの前へと導く
『この楽譜を弾いて?アタシがこれを詩にするから…』
この楽譜――つまりティムが出している楽譜のことで、改めてアレンはその楽譜を見つめる
見たことある、文字だった。中央に記された紋章も、知っていた
だが、これを読めるのは今となってはもう自分しかいないはずなのに、何故今――
「この文字が…どうして、ここに…っ」
【ソレハ唄。詩ハ"愛結"ニ、旋律ハ"アレン"ノ、内…】
ぽろん、と指が鍵盤に触れた
「!?手が動く!?」
今まで1度もピアノに触れたことがないなんて嘘かのように、アレンの指は滑らかに鍵盤上で踊っていた
「ひ、弾ける?どうして…っ読むと…メロディが勝手に頭の中に流れてくる…!」
愛結はそんな混乱しているアレンに小さく笑うと、ピアノに寄りかかって深呼吸を繰り返す
「メロディ…?違う!僕の頭の中で歌うのは誰だッ!?」
そして…ゆっくりと、愛結は口を開いた
『
"――そして坊やは眠りについた"』
アレンの頭の中で歌う誰かの音と、愛結の声が重なる
力ある言葉で歌う音が、アレンのピアノの音と交ざり合う
『
"息衝く灰の中の炎 ひとつふたつと"』
「!?ピアノと、歌…?」
「きたか!!」
『
"浮かぶふくらみ 愛しい横顔"』
「…ん?あれっ?俺ら落ちたんじゃ…」
『
"大地に乗るる 幾千の夢"』
「どうなってんだ?消滅した街が――」
『
"銀の瞳のゆらぐ夜に生まれおちた 輝くおまえ"』
「…戻っていくさ!!」
『
"幾億の年月がいくつ祈りを土へ還しても"』
『「ワタシは祈り続ける――」』
声が、交わった
『ッゴホゴホッ』
だがそこが限界だったのか、激しく咳き込んだ愛結
口許を押さえた手の隙間から、真っ赤な血が見えた
。
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