悲しき詩 | ナノ




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【オキテ、愛結】


影がまだ眠っている愛結の名を呼ぶが、反応はない

師匠が死んでも起こせと言っていたことを思い出し、アレンはそっと肩を叩く


「あの、愛結…」


怪我人を無理やり起こすのに抵抗はあるが、愛結に甘い師匠が起こせと言っていた以上理由があることは分かる

肩を軽く揺さぶるが反応を得られず、どうしようかと考えていた時…


【オキテ、オレノダイジナコ。"アイラ"】


アイラ

聞き覚えのない名前だが、それに愛結は小さく反応を示した


「愛結!?」


『う、…っ、』


うめき声を漏らしながら、傷口を押えつつも愛結はゆっくりと上体を起こした

ろくに手当ができていない脇腹の刺し傷を、上着を脱いでそれで止血をし、簡単すぎる応急処置を施す


『、アレン…?そう、部屋が開けられたの……よかった、間に合ったのね…』


「……愛結…?」


激痛に表情を歪ませつつ立ち上った愛結

どこか、その姿に違和感を感じたアレンは確かめるように彼女の名前を口にする


『あなたの言う、"愛結"はまだ…眠ってる。今は、アタシ』


そう言って左目…漆黒の瞳を指差す愛結

つまり今の彼女はノア、ということになるが…敵対する意思はないことはアレンにも分かった


【オハヨウ】


『ふふっ…嫌味かしら?笑えない冗談だこと…』


何やら親しげな様子で影と会話をする愛結は、ゆっくりと鏡に向かって歩いていく


『会いたかった。けれど…こんなカタチでの再会なら、きっと会わないほうがよかった…』


【……】


『アタシはこの子と共に生きていく…アタシの全てをこの子に託して、一緒になる。けれど…あなたは違うのね』


残念だわ、そう呟いて鏡の、影の前に立つ

鏡に彼女の姿は映らない


『会いたかった…でももう会わない方が良かった。もうアタシもアナタも、あの頃とは違う…アタシは不完全な状態で目覚め、アナタもまた――…』


【アイラ】


『…久しぶりにその名で呼ばれたわ。あなたのことはもう"14番目"って呼んだほうがいいのかしらね?』


そっと鏡に手を触れる


『優しいのに残酷な人。それでも愛しいのだからズルいわね、本当に…ねぇ?"   "』


小さな小さな声で、その名前を口にした




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