143
「―――っ愛結!」
視界が一転し気付けば元いた場所…崩壊した方舟の中におり、ティキ・ミックのいる位置がそう変わっていないところからアソコにいた時間はほんの僅かな時間であったことが分かる
「、クローム!?」
突然大きな声を出したクロームにリナリーは驚くが、今彼女の耳にそれらは届いていない
何か目に見えぬ力に導かれるようにクロームは座り込んでいるリナリーの横を、必死に巨大な瓦礫を持ちあげ続けているチャオジーの横を、そしてあのティキ・ミックの横をも走り抜いていく
チャオジーが支えていた瓦礫はその後目を覚ましたアレンらによってそれらは壊されたのだが、それすら気にも留めずにクロームは必死に走り……そして唐突に、立ち止まった
「クローム!」
彼女らしくない、突拍子もないその動きにツナはどうしていいのか分からず、様子を伺うしかない
目が覚めたばかりで、状況がどうなったのか判断できなかったというのもある
「はぁ、はぁ…っ」
そんな外野には視線を向けず、痛む体も無視してクロームは何もない虚空に手をのばした
その直後―――ぴしりと、空間が軋んだ
「――!」
見覚えのあるそれに、ツナは息をのむ
クロームの目の前にできた亀裂は、ゆっくりと時間をかけて大きくなっていく
ビキビキと軋む不快な音は相変わらずだが、先程とは違い安定しているのは見ているだけで分かった
――そして、パンッと乾いた音と共に亀裂は消え………赤が、舞った
「愛結…!!」
どさりと倒れかけた体を支えたのはクロームで、その存在を確かめるように強く抱きしめる
意識を失っており、身体も恐ろしいくらい冷たくて、腹部から溢れる血も少なくない――決して良い状況ではなかった
それでも――戻って来てくれた
どさり、
愛結が世界に戻ってきた、それはつまり"彼"も戻ってきたということで――
「…紅蓮、」
愛結から少し離れた場所に現れた彼もまた、意識を失った状態で愛結に負けず劣らずといった酷い状態だった
"あの"2人がここまで殺し合わなければならなかったという現実は、決して優しくはない
一体何があったのか、それは2人しか分からない事であったが――悲しい決意をもって、戦ったことは容易に察することはできた
「よかった…――っ、」
アレンが安心したように息をついたのと、瓦礫を踏み抜く音が小さく響いたのはほぼ同時だった
「―――クローム!!逃げて下さい!!」
そう、叫んだ時にはもう既に手遅れだった
「…っ!」
「ヒャハハハハ!!」
ティキ・ミックはその顔に狂気の入り混じった笑みを浮かべ、真っ直ぐクロームと愛結の元へと駆けだしていた――止めることができない速さで
アレンの声が聞こえたその直後感じた衝撃……それが、自分が殴られて吹き飛ばされたのだと分かったのは、口の中に血が広がってからだった
ドゴォッ
「っクローム!!」
ツナの悲鳴は、気を失ったクロームには届かない
帰ってきた彼女(それを待ち望んだのは、)
[ 312/461 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]