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「ね、一緒に戻ろう…?ボスも、待ってる…」
『、ツナが…』
「私だって、待ってる…こんな暗い場所にいるよりも、きっと…辛いこともあるけど…楽しいこともある、ほうがいいと思う…!」
一歩近づくと、怯えたように愛結は一歩下がる
『だって……っもう誰も傷つけたくない!!傷つきたくもないし、後悔したくない、泣きたくない!!もう、やだの…全部嫌なの!!』
髪をかきむしる彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいて……それだけ、愛結が傷ついていることに、クロームも泣きたくなる
生きてという言葉は、もしかしたら愛結にとっては重荷なのかもしれない
両親に捨てられ、研究所で受けた地獄、それらを全て忘れて生きてきた教団で受けた暴力………小さな肩に乗っている過去は、あまりにも重い
だが、それでも……例え自分勝手だと言われても―――クロームは愛結に、生きて欲しかった
「……私、一度"死んだ"の」
クロームの唐突な言葉に、愛結は戸惑ったように瞳を揺らす
「望まれて生まれてきたわけじゃなかったから、お父さんとお母さんには疎まれてて…交通事故で死にかけてる私の傍で言い争いをしているのを聞いた時、あぁ死ぬんだって思った…」
あの時、"凪"という少女は死んだのだ
「……だけど、私は今生きてる…骸様に命を助けてもらって、もう一度生きようって思ったの…。だから犬や千種、ボスたちに会えたし……こうして、愛結と話をすることもできる」
何を伝えたいのか、自分でももう分からないが……それでも、クロームは必死に言葉を紡ぐ
「怖いなら、私が一緒にいるから…!辛いことは半分になるし、楽しいことは倍になる、と思う!だから…だから、1人がいいなんて、言わないで…!」
『………、いっしょ、に……?』
信じられないといった様子で、もう一度呟く
『一緒…いっしょに、いてくれるの…?』
「うん」
『ずっと、いてくれる…?』
「嫌だって言っても、いる」
『…っ本当に、ほんとうに一緒に、いてくれるの…っあの人みたいに、置いてかない…っ?』
泣きながら、縋るように問う愛結に、クロームは大きく頷く
「一緒だよ。だって、私たち……と、友達、でしょう…?」
使い慣れない言葉に少し照れるも、クロームは赤くなりそうな顔を誤魔化すように自分の手を前に差し伸べる
その手とクロームの顔を交互に見比べ……愛結はそっと、その手に触れようとするが…触れる直前、パッと引っ込めてしまう
「……大丈夫だよ、きっと。みんな、いるから…」
現実世界に戻っても、決して幸せではないだろう。戦場に戻ることが、彼女にとって最良の道なのかも判断できない
―――でも…1人ぼっちではないのだから、きっと大丈夫でしょう?
『…っ、うん…』
泣きながら頷いたその表情は、決して暗いものではなかった
2人の手が重なった時――眩しい光が、2人を包み込んだ
「っ…」
咄嗟に目を瞑ってしまうが、決してその手が離れることはなかった
―――ありがとう、クロームちゃん薄れゆく意識の中で確かに聞こえたそのコエに、クロームは小さく笑みを浮かべる
―――こちらこそ、連れてきてくれてありがとう
。
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