悲しき詩 | ナノ




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「これ……」


振り返ったクロームの視界に映るのは、闇の中でほのかに光る白い道

それは恐らく、彼女に至るまでの道標となってくれるのだろう……先程の言葉を信じるなら、だが

恐る恐る、1歩踏み出し……消えないことを信じながらそのまま歩みを進める

突然現れたあの女が"ノア"であることは何となく分かっていた

"あの子"と呼ぶ時の目は優しいもので……嘘は言っていないと思ったから、彼女を信じて示された道を進んでいく



  いか、なきゃ…――



声は少しずつ大きく、鮮明に聞こえるようになってきて彼女に近づいていることが分かる

いかなきゃ、はやく、みんなが―――そんな言葉を繰り返す愛結

迷子のような、ぼんやりとした"目的"が見えない言葉


「…っ、」


――自然と、クロームは走り出していた

走って走って……永遠と続くような気さえする白い道を、ただひたすら走っていく

何度か転んだし、肺は悲鳴をあげて苦しいが――それでも、足を止めることはしなかった

永遠に続くかもしれないと思った長い道だったが、終着点はあった


「はぁ、はぁ…っ、愛結…?」


白い道が途切れたその場所でこちらに背を向けて立っているのは、間違いなく探していた愛結だった

驚いたようにこちらを振り返った愛結はくろーむ、と小さく唇を動かす


「やっと、見つけた…」


愛結と真正面から会話をするのは初めてであった

骸経由ではない、クロームはぎこちなくだが笑みを浮かべる


『……、どうしてここに…』


「私は、あなたを連れ戻しに…」


『そ、っか……でも、私は大丈夫だから…クロームは帰ったほうがいいよ』


やんわりと、だが確かな"拒絶"を込めた声だったが、ここまで来てクロームがそれに怯むわけにはいかなかった


「だって…!みんな、頑張って戦ってるのに…愛結はこんな場所で、ずっと逃げてるの…?」


"あちら"では今も皆、一生懸命現実を生きようともがいているというのに、こんな場所で一人、逃げるなんて――あまりにも悲しい


『―――だって…だって、疲れちゃったんだもん…全部、疲れちゃったの』


心の中だからなのか、愛結は疲れた表情を隠そうともしないで前髪をかきあげた

まるで眩しいものを見るかのように、目を細めクロームを見る


『あっちに戻ったって、また辛い思いをするだけなら、もう……。ここにいればもう、何も感じないですむでしょ?』


「愛結…、ちがう、愛結だって、ここから出たいって言ってたじゃない…!」


あの響いた声が嘘だとは思えない

少し疲れてしまっただけで……彼女はまだ、諦めようとしていないはずなのに




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