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「…、っ!?」
意識がなくなったわけではない。"闇"に包まれたのだと認識するのに時間を要した
何もない…何も存在しない虚無の闇
「…い、いや…っ」
誰の存在もない、ひとりぼっちの孤独――こんな場所に閉じ込められたら気が狂いそうになる
恐怖に震え、小さな悲鳴がもれるが……聞こえてきた"あの声"に、自分を落ち着かせようと大きく深呼吸を繰り返した
みんな………「愛結、なの…?」
いかなきゃ……はやく、いかなきゃ……声は確かに彼女のものだと分かるが、姿は見えず頭に直接訴えかけるように、か細い声が響いている
はやく、はやく……でも、どこへいけばいいの……はやく…自分の言い聞かせるように何度もいかなきゃ、と語っている愛結に、クロームの声は聞こえていないらしい
突然連れてこられたこの世界……方舟のなか、というよりは……
「ここ、まるで…、」
「――そう、ここはあの子のココロの世界」
誰もいない世界に、突然声が割り込んできた
「っ、だれ…!」
「この姿ではハジメマシテ、ね。むっくーそっくりのクロームちゃん」
闇の中でも不思議と溶け込むことはない、黒い髪を持つ女性はそう笑みを浮かべた
雰囲気や顔立ちは、どことなく…彼女に、似ている気がする
「ここはね、あの子の心の世界。壊れかけた心を大事に守りながら閉じこもった、暗い世界。あなたを呼んだのは、アタシ。骸でも良かったのだけど」
「骸様…?」
「あれ、詳しくは知らないんだっけ?知り合いの知り合いって関係かしら…まぁ、骸であろうとあなたであろうとアタシの目的を果たしてくれるならどちらでも構わない」
浮かべた笑みを消して、女はクロームを見つめる
「一回、無理やり"そちら"に戻そうとしたけど失敗しちゃって…これ以上ココに閉じこもるのは、あの子にとっても……"アイツ"にとっても良くないの」
だからね、とクロームの両手を掴んだ女の手は、驚く程冷たい
「…だから、あの子を助けてあげて。アタシではあの子を起こすことはできない…アタシではあの子の壊れた心を癒すことはできないから。それができるのはきっと、あの子を待っててくれるあなたたちしかできないと思うから…」
「、あなたは一体……」
「ふふ、ひみつ」
クロームの言葉を遮った女はいたずらっぽく笑うと、掴んでいた手を離してそっとクロームの肩を押した
トン、と優しい手で押されたクロームは一歩、後ろへ足を動かすが――その足元に、先程まではなかった”光"が見えて驚く
「あの子のこと、頼んだわよ。骸が選んだクロームちゃん」
その言葉に慌てて顔を上げるが――そこにはもう、誰もいなかった
。
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