悲しき詩 | ナノ




138 帰ってきた彼女




「―――お…俺には…っ何も、できねェッス……!」


絶望しか見えない、そんな最悪と言っても過言ではない状況

戦えるアレンとラビ、ツナは満身創痍といった状態で気を失っており、クロームやユミは戦える状況でもない。ほぼ無傷のティキ・ミックに首を掴まれて苦しげなリナリーを助けることもできず、チャオジーは己の非力さに唇を噛みしめることしかできない

誰もかれもが傷を負っており、方舟の中は瓦礫の山で埋め尽くされている


「アニタ様、マホジャ様…みんな…っ俺には何も…っ何も……!!」


悔しさに涙を流す

ここまで来る道中で、道半ばで海に沈んでいった仲間たちを思い出し、生かされた自分の力不足が情けなくて堪らない


「かっ…あぁ、っあ…」


ギリギリと首を絞められる力が増し、リナリーは苦しげな声で呻く


「が、っう…っ…、――――?」


だがその力が突如として緩み、リナリーは涙が滲む目をうっすらと開く

表情から感情を読み取ることはできないが、周囲を見渡すその行動から何か別のことに関心を持っていかれのは確かであった


「ど、どうしたんスか、急にアイツ…」


「……分からない…けど、変なかんじは、する……」


言葉では言い表すことができない不思議な感覚に、クロームはギュッと三叉槍を握りしめる

なにかが、近づいて……いや、戻ってくる?大きくて、小さい、なにかが……


「、まさか…」


その可能性に思い当たったクロームが顔をあげたのと、ミシリと聞き覚えのある音が聞こえてきたのはほぼ同時だった

ミシミシと思わず耳を塞ぎたくなるような不快な音とともに、ゆっくりと空間にあの黒い裂け目が大きく歪んでいくのを皆――ティキ・ミック含めた皆がただ見つめている


「愛結…なの……?」


ビキビキと確実に裂け目は大きくなってはいるが、それがとても不安定なモノだというのは見ていればすぐに分かった

周囲の異変に気付いた、気を失っていたツナらも目を覚まし、そして同じようにソレを凝視している

静電気を薄く纏いながら広がっている裂け目から覗くのは、真っ黒な"闇"

一筋の光すら通さない"黒"に、本能的な恐怖すらこみ上げてくる

目を逸らしたくなる恐怖に負けぬよう、何が起こってもすぐ対応できるよう見守っていた一同は、"彼女"が戻ってくると確信を持っていた

ここから"出て行った"時と全く同じ現象に、そう疑うことすらしない

だから――


バァンッ


「な…、」


「え!?な、なんで…」


大きな破裂音と共に、空間の裂け目が消滅した時、思わず気の抜けた声がもれたのも頷けるだろう

一体何が――呆然と裂け目があった空間を眺めていたツナの、はるか頭上でピシリと亀裂の入る音が小さく響く

直感的に顔を上げたツナの視界に入ったのは、亀裂が入り崩れ落ちてくる瓦礫の山だった


「く、そ…っ」


狙いすましたかのように頭上に落ちてくる瓦礫

ティキ・ミックに散々痛めつけられた体はとっさには動いてくれず、ラビが悔しげに小さく悪態をつく

そのきっかり5秒後―――大きな瓦礫が、3人の上に降り注いだ




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