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『……っあ、たしたち…、一緒に…なれないの……?』
「…あぁ」
『いっしょにいると、どっちかが、死んじゃうの…?』
「あぁ…っ」
止血してない刺し傷から絶えず溢れ出す血は、周囲を赤く染めていく
大量の出血のせいで意識が少しずつ曖昧さを増していき、その不安定さを示すようにこの狭間の世界も少しずつ、崩れていく
戦いの爪痕を深く残していた大地は少しずつ"無"へと還っていき、それは現在進行形で行われている
もう世界の殆どは、壊れかけていた――まるで彼女のココロのように
『わ、たし……』
何かを言わなくてはいけない、そう思うのに涙が邪魔をして言葉が出てこない
否定したいのに、全部紅蓮の思い込みだと…悪い夢だと笑って言いたいのに、出てくるのは嗚咽だけで笑みを浮かべることなんてできるはずもなかった
「――"記憶"してるから、さ……まァ、実際…けっこう、つらいっつーか…おれとおまえ、どっちかしか…生きられねー、ならおれが死ぬ、って思ったけどさ…まだだいじょーぶ、まだ一緒にいられるって、ずるずるしてたなんてな、はは…だっせ、よなァおれ」
――死ぬのは怖くないのに、死にたくなかった
「悪役(ヒール)やって、ざいあくかん、なく殺されるつもり…だったけど、なァ…甘ェの、はおれも、かァ…ほんっと、わらえねェよなァ…」
はは、と力なく笑う声は細く小さい
『ぐ、れん…、』
「おれ、さァ」
残った力を全て使って僅かながらも体を起こし、紅蓮は愛結と目を合わせる
血の気の失せた頬に流れる涙を拭おうと、血のついた手でそっと触れる
「俺さァ、お前のこと……、本気で――…」
小さな、聞き逃してしまうぐらい小さな声で囁かれた言葉に、愛結は目を見開く
その様子に少しだけ満足そうな笑みを浮かべ――紅蓮はそのまま、どさりと愛結に倒れ込んだ
意識を失っただけで、死んでいないのは心臓の音で分かる
聞こえないと知りながら、それでも愛結はぐれん、と唇を震わせる
『ぐ、れん…っぐれん、紅蓮…っ!』
確かに聞こえた、言葉
それは、普段中々口にしてくれない言葉
―――ほんきで、あいしてるから
『あ…あ、あああぁぁぁああああっ!!』
セカイが、砕けた
それを感じ取る前に、愛結の意識は深い闇に沈んでいったのだった
。
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