悲しき詩 | ナノ




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『……―――んで、』


自分でも情けなくなるほど震えた、小さな声


『なんで、なんで…こんなことに、なってるのよぉ…っ!』


服を皺になる程強く握りしめて言った言葉は、ずっとずっと聞きたかったこと

ずっと言いたかった言葉


『たたかいたくなんて、ないのに…っ!!』


どれだけ酷い事実が明るみに出ても……紅蓮と、ずっと一緒にいてくれた紅蓮と、殺し合いなんてしたくない

立ち止まることが許されずずっとこの戦いを走り抜けてきたが……ここでようやく、考える時間ができた


「わりーな…そんな想い、させたい、わけじゃ、ねぇんだ…」


苦しげな呼吸を繰り返す紅蓮の体が、どんどん冷たくなっていくのを感じる

恐らく自分も似たようなものだろう。あれほどあった痛覚が、徐々に鈍ってきているのだから


「知らなきゃ…よかったんだ、なにも、しらなきゃ…こんなことに、なんて。近すぎた、んだおれたちは」


殺し合うには、2人の距離は近すぎた


「もとは、同じだった…惹かれあうのも、必然だった…」


"愛"のメモリーは"慈愛"と"憎悪"の2つのメモリーに形こそ変えたが、本質は同じ

姿形は違えど、お互いがまさに鏡に映したような存在だったのかもしれない

似ているのに全く違う、一番近いはずなのに遠い、同じなのに正反対


『…っ!必然なんかじゃ…!!そんなんじゃ、私は…!!』


「はは…あのころ…関係なかったよ、なぁ……」


あの研究所で初めて会った時、愛結はノアの瞳を埋め込まれておらず、紅蓮も覚醒していないただの人間だった

その出会いを、たった一言で片づけられたくはない

――だが、もう今は"必然"となった


「でも、今は違う……お前は慈愛を…俺は憎悪を、受け継いだ……もう、これは、変えられねェ"必然"なんだ…っ」


少しだけ、泣きそうな声


「俺と、お前は…、一緒には生きられない…!」


いっしょにいきられない――言われた言葉がすぐには理解できない

否定することも忘れ、ただ呆然と紅蓮の口から語られる言葉を聞くことしかできない


「もとは、"1つ"だった、メモリーだ…歪に、わかれた…それは、1つになろうと、する……だから、俺らが"2人"…いると必ず"争い"がおきて…ころしあう…片方のノアを、飲みこもうとしてな…」


あたまが、パンクする


「俺らの人格は、関与されねぇ…もう、愛のノアは、もう半分、覚醒…しいてる……おまえの、"感情"を受け継いだ慈愛が…"記憶"を受け継いだ、憎悪を…飲みこもうと、してんだ……むいしきに、な」


『な、にそれ……』


「今は、まだいい…だけど、ぜってェに、"その日"はくる……本能に、支配されるまえに、いっそのこと……そう、思ったんだけど、な…」


告げられた、事実は到底受け入れることなんてできないものだった


―――だって、そうでしょう?

―――彼の言葉通りなら、私と紅蓮が愛し合ったのは、自分たちのノアが引き寄せられたからで、愛というのはその際生じたマヤカシ?


そんな残酷な事実なんて、信じたくない




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