悲しき詩 | ナノ




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ぶち、と乾いた音とともに、止まっていた愛結の心の時間がゆっくりと動き出す

クリア過ぎた視界は徐々に狭まっていき――急に、目の前のことが現実味を帯びる


―――今、目の前にいるのは、私がこの手で剣を突き刺したのは、彼は、私の大事な、、、


『あ、あ…あぁっ…っ!』


目の前の現実を受け入れることが、できない


『や、やだ…ち、ちがう……ぐれ、ゴホゴホッ』


避けれたはずなのに

殺気駄々漏れの、手負いの女の一撃なんて余裕で避けれるはずなのに

だが篝火は彼の体に突き刺さっており、"あえて"その剣を受け入れたということになる


『なんで…な、んで紅蓮…っ!』


紅蓮の手が篝火に触れ、それを苦悶の表情を浮かべながらゆっくりと引き抜く姿を見ながらも疑問しか言葉にできない

なぜ、どうして、だって、そんな、

引き抜かれた篝火が、地面におちる音が響く


『ぐ、れ』


何かを言いかけた愛結を遮るように、傾いた紅蓮の体が彼女にもたれかかる

それはまるで抱き合っているようでもあったが――冷たい体に、熱い血に、恐怖しか感じない


「―――はは、…っ結局…最後まで、甘ェんだな…おま、えは…」


荒い呼吸から感じられるのは、濃い"死"の気配


「しんぞー、ねらえば一発、だ…たのに、さ」


『な、にを…』


「髪まで、結んだ、のに…ほんと、あめェよな…」


『ねぇ、お願い…なに、言ってるの…っ』


痛みでトびそうになる意識を気力で繋ぎとめながら、紅蓮の言葉を必死に考える


「せっかく、俺が…かんがえて、大人しくころされて、やろーとしてやったのに…ばーか、」


『ぐれ、…っ!?』


ガンッと突然地面が縦に大きく揺れ、言葉が途切れる

その際傷口が開いたのか鋭い痛みに呻くが、それでも何とか意識を繋ぎとめる


「は、はは…頼むで、まだ意識…とばすなよ…」


激痛と戦っているのは紅蓮も同じ

グラグラする世界に目を細める


「ここは、おまえが作った、"ハザマ"だ……意識を、なくせば強制力も…きえ、この世界は、きえる……」


確かにココは言葉を使って作りだした、不安定な世界。だから効力を失えば元いた世界…あの方舟に戻るということなのだろう

だが言葉の強制力が消えてしまったら――今現在も支配している現象も、消えるということで


『じかんが…つなの、傷が…』


「はは…んなこと、知るか…俺にとっては、お前がいれば……それで…っ」


『……っ!』


こんな声、卑怯だ

何も、言えなくなってしまう

抱き合っている紅蓮の表情は見えないけれど――何となく、泣きそうな顔している気がした




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