悲しき詩 | ナノ




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静まり返った、閉ざされた空間

ぽたり、ぽたりと零れるのは、真っ赤な血


『ゴボッ、』


鉄くさい口内に吐き気がする


「痛ェか?」


たった今、愛結に剣を突き刺した人間とは思えないような質問

躊躇なく――宵夜に、体を貫かれた

手が届く距離にいながら、とても遠い距離


「……ま、痛くないわけねェか」


激痛通り越して感じるのは熱だ

あまりの熱に意識をトばすことも許されず、篝火を強く強く握りしめる

宵夜を伝って零れ落ちる自分の血の音

少しずつ死に向かっていくのを感じながら、しかし愛結の頭の中は静かだった

この怪我、この血の量からいってもうすぐ自分は動けなくなるし、そのまま行けば死ぬだろう

これがきっかけで他の怪我も戻ってくるかもしれない、死にかけという言葉がピッタリな今の状況


『……っ、』


――だけど、今なら殺せる

篝火を更に強く、握り直す

動けなくなる前に、この距離なら…今なら死ぬ前に殺すことができる


「痛くて当たり前だよなァ」


視界は揺らいだままで、感情の見えない声で呟く紅蓮の表情を伺うことはできない

痛みが、熱が途切れないよう意識を繋ぎとめてくれている

紅蓮の冷たい手が頬に触れ……ゆっくりと、突き刺さったままだった宵夜が引き抜かれていく


『う、あ……っ』


じゅくりと嫌な音を立てて引き抜かれるその激痛に、声も出せない


――やるなら、今しかない


火事場の馬鹿力とでも言うような、力を振り絞って篝火を強く握りしめる

宵夜が愛結の体から完全に引き抜かれたのと、篝火が紅蓮の体に突き刺さったのはほぼ同時だった

ぐさりと肉を貫く感触

殺すつもりだったその一撃は、心臓の近くへと刺さり…通常なら致命傷ともいえるもの


―――だけど、冷静になって考えれば……紅蓮が殺気に気付かないはずがなかった


『、え…?』


不明瞭な視界でも、彼が笑ったのが分かった

避けることだってできただろうに、笑って、刃を受け入れた――その意味は、?


『――、』


驚き目を見開く愛結の頬に触れていた手は、いつのまにか髪を縛っていたゴムを力任せに引きちぎっていた




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