126
方舟内
「ティッキー!?」
アレンの剣がティキを確かに斬り裂いた
痛覚もあったというのに――ティキの身体に、傷口は見当たらず、ティキはアレンを睨む
「死なない―…?何のマネだ、少年」
アレンが斬ったのは肉体ではない
「……な、」
――彼の、ノアの部分だ
アレンに斬られたところに十字架が浮かび上がり、その想像を絶する激痛にティキは叫ぶ
「人間を生かし魔だけを滅する。それが僕と神ノ道化の力…!」
痛みに狂うティキを見て、震える声でロードは呟く
「……視てる?千年公。あれは――貴方が悪魔にし損なった彼のピエロだよ…!」
あれだけ苦戦していたティキを見下ろすアレンの瞳は、とても静かなものだった
「俺から…っ!ノアを…奪おうっての…かっ…?少、年」
苦しげな表情で呻きながらも、ティキは嗤う
「俺を殺さず…にノア…だけ?―――フハッハハハハハハ!!お前は…甘いな!これは…ただのお前のエゴだ…っ!」
「なんとでも。その為の重荷を背負う覚悟はできている」
"エゴ"だと言われてもアレンの瞳が揺らぐことはなかった
神ノ道化と一緒に、アクマと人間のために生きると決めた時、覚悟は決めたのだ――分かりきったことを言われたくらいで揺らぐような柔な覚悟ではない
この一連の流れに嫌な予感を感じたロードは、傍観者の立場を捨てレロの上から飛び降り、ティキのもとに駆け寄ろうとする
――だが、それを止めたは他でもない、ティキだった
「いい」
すっと伸びた手
薄く笑みを浮かべてたった一言口にしたティキに、ロードは思わず足を止めてしまう
覚悟を決めるよう一度強く目を瞑ったアレンは、退魔の剣を振り上げた
「…この戦争から退席しろ、ティキ・ミック!!!」
ドンッ、とにぶい音が静まり返った空間に響いた
「残念だ…少年」
貫かれたまま、ティキはアレンの頬にそっと手を伸ばす
「悪いな…ロード……」
ロードの目が大きく見開かれる
アレンが剣をティキの体から勢いよく抜き取ると、その反動に従いティキの体はどさりと地面に倒れた
徐々に、ティキから"黒"が失われ……最後に、額にあった七つの聖痕が、消える
「ティッキーの聖痕が、消えたレロ…」
その事実を、敵味方関係なく皆呆然と見つめていた
。
[ 295/461 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]