123
『……っ、』
一瞬白に染まった視界は、瞬きを繰り返せば先程までとは全く違う景色が広がっていた
「これ、お前の趣味?」
紅蓮が呆れたように呟く
だがその言葉に反論できず、愛結は広がる景色に言葉を奪われる
ココは、空間と空間の狭間。誰にも邪魔されない場所という意味ではうってつけであろう
言葉を使って自分たちという"異物"を弾きだし、その先に待つのは上も下もない、果てない"無"の空間のはずなのだが…
『ここ、教団の…』
今立っている場所は暗闇ではなく、見慣れた教団の、野外の稽古場だった
風を感じるし、空から太陽が照りつける感覚もある
だが、人や動物など生物の気配は全くないことから、やはりココは教団ではないのだと理解できる
何も命じていないのにこの景色が映し出された理由は分からないが…もしかしたら、ここは自分の心のナカを映し出したものなのかもしれない
紅蓮に武器を向けるのはこの稽古場以外あり得なかったから…無意識のうちに思いだし、それが反映された、のだろうか
何もかも推測でしかなく、確固たる根拠なんてどこにもないのだけど
『…でも、ココが一番ふさわしいんじゃない?』
教団で過ごしていた日々は最悪といっても過言ではない環境ではあったが、ここで紅蓮と手合せをしている時は、それらを忘れることができた
紅蓮しかいなかったあの頃とは違い、今の愛結にはたくさんの仲間ができた。本当の自分を知った―――"1人"じゃなくなった
紅蓮の手にあった篝火は今は愛結の手の中にあり、あの頃より長くなった髪が風に揺らいだ
何もかも違うのに、どこかあの日に戻ったような不思議な感覚に目を細める
暇だろ鍛錬に付き合えよ、と突然腕を掴まれてココに連れてこられ、突然斬りかかられるのを必死に避けて反撃して……最後には2人で地面で寝そべる
そして汗をタオルで拭いながら、なんてことない話をしながら教団へ帰っていくのだ。今度こそ負かしてやる、なんて言いながら
『……今度こそ、負かしてやるから』
「お、懐かしいなそれも」
いつもと同じようなやり取りに小さく笑みを浮かべると――同時に後ろに跳び、距離をとる
『さぁ、はじめましょう』
「あぁ、始まりだ―――
空間凍結、完全解除」」
その言葉と同時に空間の裂け目から出てきたのは、何もかも真っ黒な…闇そのものを閉じ込めたかのような、漆黒の大剣だった
「俺の本当の"相棒"、"宵夜(ヨヤ)"だ」
『、よや…』
「――なァ、思い出したよな?俺の右腕はあのクソ実験によって前の篝火の適合者だったヤツのものに切り替えられたってこと。だが、アイツらは唯一の、だけど致命的なミスを犯した」
そう言い漆黒の剣…宵夜を持つ紅蓮だが、その姿に違和感を感じて愛結は眉をひそめる
持っている剣こそ違うが、それ以外は見慣れたもののはずなのに…この違和感は、何だ?
「まだ、気づかねェ?俺は"右腕"を取り換えられたけど……左腕は、自分のものだぜ」
『……!』
そこでようやく気付く
いつも篝火を持つ時は右手だったのに――宵夜を持つ手は、左だった
「研究者共は勝手に右利きだと思い込んで俺の右手を切り落としたけど、俺利き腕は左なんだよなァ」
左手で宵夜を持つ紅蓮は、笑う
。
[ 292/461 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]