122 本気という名の感情論
『「
この体に怪我は存在できない」』
戦いが避けられないものとなった瞬間、愛結と紅蓮は同時に言葉を紡いだ
お互い怪我なんてないに等しい状況なのに、何故この言葉を選んだのか――
『
傷は累積されるもの。存在を否定する。傷が存在することは許さない、赦されない』
「
未来に移転、傷の蓄積。今この身体にかすり傷一つ負うことすら許さない」
『「
致死量を超えるその時まで」』
幾重にも重ねられた言葉で言い締めた時、2人の体にあったかすり傷などは消えてなくなっていた
――否、存在を無にすることはできないと言っていたことを考えると、今の存在を否定した、ということだろうか
「、愛結ちゃ…」
『ツナ、ごめんね。今からツナたちに構う余裕はないと思う。クロームをお願いね、ツナの傷は私が解除するまで戻らないと思うから安心してね』
淡々と告げられる言葉は意見を求めてはいない
「お別れは今のうちにすましておけよー?――
空間凍結解除」
ピシリと、紅蓮の近くの何もないはずの空間に亀裂が入る音がした
『
その解除待ちなさい。何を呼び出すつもりなのかはしらないけど、勝手はさせないわよ』
愛結の言葉に従い、空間を裂いていた亀裂が止まる
『――んで、私のことは考えずに戦いが終わったら方舟から脱出してね、ツナ。私も絶対に後から追いつくから…』
「そんな…!」
『
求めるのは解除ではなく隔離。隔離を求める。私と紅蓮しかいない、そんな空間に隔離』
紅蓮と愛結の周囲の空気がミシリと軋む音がした
力ある言葉で紅蓮を牽制しつつ、愛結は会話を続ける
『酷いこと言ってるって分かってるけど…ごめんね、私は私なりの決着をつけたいの』
だんだんと空間に、不自然にはいった亀裂が2人を包囲していく
「チッ…
解除を止めることなどできない。隔離が止めれないのと同義、解除も止められない」
隔離化は止められないと察した紅蓮は忌々しげに舌打ちをこぼす
"絶対できない"代わりに"絶対できる"ようにする、ひねくれた言葉を重ねて自分の解除を絶対なるものに仕立て上げた
もうこれで、お互いの解除と隔離を止めることは不可能になったのだ
『ひねくれた言葉遊びね』
「別に壊してもいーんだぜ?」
『壊せる程の言葉を重ねるまえに解除し終わってるから無駄ね、それは』
少し離れた場所にいるツナたちでさえ、無理やり空間を捩じられている音(いや、衝撃?)に顔をしかめているというのに、その中心にいる2人の表情は変わらない
「愛結ちゃん、待…っ」
『ごめんね、ツナ。行ってきます』
振り向いてこちらに笑いかけた彼女の表情は、色々な感情が入り混じった複雑そうなものだった
それに声をかけることができず固まってしまった一拍後――ひび割れた空間によって生じた"黒"が2人を包み込み…一瞬で、その姿が掻き消えたのだった
。
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