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『うん。"私"は高井愛結。それで、十分だよね?』
青と黒のオッドアイで、いつものように笑った彼女の姿だけで、十分だった
「愛結…心配しましたよ、本当に…」
『ごめんね…でも、臨界点突破おめでとうアレン』
「!先程までのことは覚えてるんですか?」
『そりゃぁもちろん。だって"私"だもん、覚えてるよ全部』
シルフを殺したことも、ツナを刺したことも……全部、覚えてる
それをやったのは"私"ではないと言い訳するつもりはなかった
"アタシ"を受け入れると決めた時点で、白でも黒でもない、灰色になると決めたのだ
「ノアのメモリーが覚醒した、のか?」
『それは間違いではないけど正解ではないの、ティキ。ノアであり、エクソシストでもある…』
褐色のままだった肌色が、どんどん白さを取り戻していく
『私は、私』
自分の肩ほどまである大きな剣を持ったまま、堂々と語る愛結
その姿は自信にあふれていて…これほど、彼女は強かったのかと再認識してしまう程に
『……だからさ、紅蓮…もうやめよ?』
視線を移した先にいる男を見つめ、愛結は小さく呟く
世界そのものだと言いきっていた彼女が目覚めたというのに、紅蓮の反応は薄い
視線が絡み合う
『私はもう、紅蓮が誰かを傷つけているところ、見たくない……今なら、きっと今ならまだ間に合うから…っ』
――最終通告だった
いつもみたいに、全く悪びれていない顔で悪ィ、なんて言ってくれたら……しょうがないなぁと笑って許すことができる――そうできる、ギリギリのライン上に自分たちはいるのだ
――だから、お願い悪いって、冗談が過ぎたって言って……!
「……は、間に合うわけねェだろ、どう考えても」
だが、紅蓮はためらいもなく、愛結が用意したラインを踏み越えた
「お前のほうこそどうなんだ?愛結。俺と一緒に来るなら、、まだ"大丈夫"だぞ?」
こちらに手を差し伸べるその手に、縋りつきたい気持ちを押し殺す
相容れない存在を、受け入れるわけにはいかないのは愛結だって同じだった
『――無理ね、もう大丈夫じゃない』
戦いたくない
震える手を篝火を強く握ることで誤魔化し、目頭が熱くなるのを我慢して、一言呟いた
『交渉決裂、ね』
望まない戦い(大丈夫だったら、よかったのに)
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