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全てを捨てて、愛結だけとなった世界が正しいだなんて思えないし、思いたくない
それを彼女の意思なく、紅蓮の都合だけで捨てるのは、エゴだ
少なくとも愛結はそんな寂しい世界なんて望んでいない、そう断言できる
たった数ヶ月一緒にいたツナでも分かるのに、何故ずっと一緒にいた紅蓮が分かってくれないのか――きっと、誰よりも心を通わせた2人なのに
それが、ツナにはとてももどかしい
「俺は…俺たちは、みんなで一緒にいる世界を作ってみせる!」
「勝手にドーゾ。そのたびに俺が壊してやるけど。
こい、篝火」
地に転がっていた剣を呼び、掌に収める
バチィッ
「…!」
――否、収めようとした
力ある言葉に従い、紅蓮の掌に収まったように見えたが――その瞬間、青白い静電気がはしり紅蓮の手からこぼれ落ちる
――明らかな、拒絶だった
「………
従え、篝火」
再度、あの声で命令を口にするも、大剣はピクリと動いただけで紅蓮のもとへと行く様子はない
「
篝火、宿主の命令に従えねェのか?来い」
言葉を重ねて強制力を強めるも結果は変わらない
「うっざ…たかが武器の分際でこの俺の"言葉"を無視するとか…」
ガシャン、篝火を踏みつける紅蓮の目は氷のように冷たい
使えない武器なんて…ただの邪魔なゴミだ
「、まさか…!」
「こんなモン、俺が壊してやる」
イノセンスを破壊させることぐらい、ノアでもある紅蓮にとっては容易なことだ
何の未練もなく…むしろ清々した気分で篝火に手を伸ばした、時
『――――
おいで、篝火』
「え…?」
突如響いた、力ある言葉
紅蓮のそれに従うことはしなかった篝火が、動いた
紅蓮の手が触れる前に、クルクルと勢いよく回転しながら―――命令した人物の手の中におさまった
俯いたまま、手だけ前に出していた彼女は、そっと顔をあげ……小さく、笑った
『…へんなかお』
それは、ツナらにとって見慣れた彼女の笑い方で……ツナは、震える声で問いかける
「……、愛結ちゃん、なの…?」
――自分らが知る、いつものキミなの…?
。
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