悲しき詩 | ナノ




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バチバチッ


アレンが閉じ込められている真空空間に纏わりつく青白い静電気

どうすることもできず、ただそれを見守ることしかできなかったツナは、ふとハコの上に腰かけている愛結の様子がおかしいことに気付いた


『、は…はは、』


苦しげな表情でこめかみを押えている愛結

だが、その口許は確かに綻んでいた


『ったく、一体どれだけ待ったと、思ってるのよ…』


「愛結、ちゃん…?」


『はは、ごめんねつな、お腹、痛かったよね…アタシは治すこと、できないから…あの傷、戻ってくるけど…』


ぴきり、真空空間にヒビが入る音が響く

周囲に音は溢れているというのに、不思議と愛結の途切れ途切れの声はすんなりと耳に届いている

見上げるツナと、見下ろす愛結の視線が交わる


『ずぅっと、置き去りにされてたアタシを、受け入れてくれたの、あの子…"賭け"だったんだけどね、ふふ…』


「え…、どういう、」


まるっきり雰囲気の違う"愛結"に戸惑うツナ

まるで、最初から全て嘘だったと言わんばかりに――

瞳を揺らすツナに、しかし"愛結"は気にすることなく言葉を続ける


『アタシは消えて、元の"ノアの力"に、戻るの…あの子と一つに、白でも黒でもない、灰色に…!』


だからキミとはもうお別れね、そう小さく笑う

その笑みがどこか悲しげで、ツナは何か言おうと口を開いた、その時


「―――ようやく戻るのか、アイツに」


閉じ込められていたはずが、いつの間にかハコの上に腰をかけてこちらを見ていたのは、紅蓮

何の感情も浮かんでいない――いや、強いていうなら退屈そうな、だろうか。そんな無機質な目を向けられても愛結が動じることはなかった


『ハコから、出られたんだ紅蓮…』


「物質を支配して透過させれば充分だろ。ロードだって本気で俺を閉じ込めるつもりはなかっただろうよ」


今まで大人しくしていたのは、動く必要がなかったから…ただそれだけ


『相変わらず、可哀想なひと…あの子以外全部…"自分"すら捨てた世界は…寂しいもの、ね』


「言っただろ、俺にとって世界なんてアイツ以外必要ねェって。他は全部目障りな虫だ…もちろん、"お前"もな」


『…ぜんぶ、分かっているのに、そう言えるのは、強いから…それとも弱いから?ふふ、今となってはどう、でもいいけど』


くすりと笑い、視線をツナに向ける


『アタシが眠れば、起きるのは、あの子…受け入れて、あげてね?"高井愛結"を…』


「……当たり前だよ、愛結ちゃんは俺たちの仲間だ!」


パリン、と真空空間が破られた

それを眺め、時間だと小さく呟くと、自分が腰かけている面のハコに手を触れた


この壁は今現在では存在できない――どうせ壊れるハコだから、ずっと存在できないままだろうけど』


「っ!!」


急に落ちてきた彼女を慌てて抱き留めるツナ

苦しげな、でも嬉しそうな表情で、"アタシ"は笑う


『アタシね、ツナ…別にツナのこと、嫌いじゃなかったよ、』


―――過去に閉じ込められてしまっていた子供は、そう小さく笑うとそのまま瞳を閉ざしたのだった




灰色の存在
(アタシは私で、私はアタシ)


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