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ガキィンッ
「……まさか動けるとはなァ」
少しだけ感心したとばかりに、紅蓮はツナを見下ろす
邪魔な骸…いや、今はクローム髑髏か。邪魔者の息の根を止めようと突き刺したはずの剣は、この少年によって止められた
刺されたはずの脇腹から傷は見当たらず、服に付着している血がなければ夢かと思っただろう
邪魔するなという意味を込めた目で"彼女"を見るが…当の本人はこちらの視線に気付いていないのか、反応を示すことはない
睨んでいるといっても過言ではないのだが、壁に寄りかかって俯いたまま、こちらを見る気配はない
何を考えているのかは知らないが――今はこちらのほうが楽しそうだ
「アイツの力か?」
万能な能力なんて存在しない
この支配の能力だってそう……この力は"世界に存在する事象に影響を与える"力
傷を癒す力はない。できるのは言葉を重ねて傷ついた細胞を無理やり活性化させること
人の限界を超えて活性化したところで出来上がるのは一つの死体である以上、そのセンは消える
なかったことにする、存在の否定はできないことを考えると――傷を未来へ移した、と考えるのが妥当だろう
「ハァ、ハァ…っ」
いくら怪我が消えたと言っても失われた血液や疲労感までもが消えることはない
息が切れ切れで立っているのがやっとであろうに剣を受け止めた、その気力は認めてもよいレベルだ
「そんなにこの女が大事なんか?」
「、っクロームは、仲間だ…!」
「なかま、ねぇ」
グッと篝火を持つ手に力を込めると、簡単にツナの体はぐらつく
上から押す紅蓮と、クロームを庇って下から押し返すツナでは明らかに前者のほうが有利だった
「仲間なんて必要ないモンにいつまでこだわってんの?足手まといは切り捨てなきゃ自分まで死ぬことになるんだぜ?その足手まとい共のせいで、愛結は俺の手から離れていこうとしたし…ロクでもねぇって」
ぎり、と剣を持つ手に力が入る
「俺は愛結がいればそれでいいし、愛結も俺だけいればいい。仲間?そんなすぐ裏切る連中なんて必要ねぇだろ。1人じゃ何もできねェ弱いヤツらの価値観を俺らに押しつけんじゃねーよ。アイツだって"仲間"に裏切られてその無意味さはよく分かっただろーし」
「そ、れは…っお前が、そう仕組んだ、んだろ…!愛結ちゃんは、俺たちの、仲間だっ!」
ギリギリッ
「違ェよ、テメェらの"仲間"じゃねぇ、俺のだ…!」
「…っ!」
支えきれないと判断したのだろう、ツナはクロームを蹴飛ばして自身も紅蓮から距離を取る
「テメェらを殺したら愛結も分かるだろうさ、仲間なんて不要だとな!」
剣を再度構えた紅蓮が、ツナ目がけて斬りかかろうとした、その時
ゴォォォォ――
「はぁ!?」
突然サイコロ状のハコに閉じ込められて、宙に浮かされた
。
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