悲しき詩 | ナノ




109





――ザシュッ


「もーらいっ」


「くっ…」


利き腕を斬りつけられ、骸は顔を歪める

一番強いはずの人間道を発動してもこのザマ…想像以上の強さと言うべきか

ノア化した状態でイノセンスを扱うということは相当力が抑えられているはずなのだが…

確かにこちらもクロームの身体を使っての戦闘で力を抑えられてはいるが、この互角かそれ以上の戦闘力は驚嘆に値する


「ったく…さすがにしぶてェなー。さっさと死んでほしいんだけど?」


「まったく同じ言葉をそのままお返ししますよ」


――そろそろカタをつけなければ、この体の"時間切れ"も近い


ギュっと傷口を布で覆い応急処置をし、また三叉槍を構える

紅蓮相手に小手先の幻覚は通じないことは分かっているため、肉弾戦でいくしかない


「…あ、そういえばお前達なんだよな、あの胸糞悪ィマフィア潰したのって、さ!」


ガキィンッ


「えぇ、この目を移植されてから潰しましたよ」


あまりにもあっさりと潰れて面白みがなかったのはよく覚えている


「ま、俺らがお偉いさん殺してるわけだし、残党くらいさっさと殺せて当たり前だっての」


キィン


「……っ」


弾かれた槍を持つ手が震えるのを感じ、骸は表情を変えないながらも思考を巡らせる

これ以上長引かせても不利な状況は変わらない…勝つには先手を打つしかない

一か八か、ではあるが――…


ドンッ


強く地面を蹴りあげ、紅蓮に向かって槍を向ける

小細工はない、だが渾身の一撃――それを受け止めきれず、紅蓮の持つ"篝火"は彼の手から弾き飛ばされた

勝ったとは思わないが、少なくとも優位には立った。そう思い油断なく紅蓮に武器を向けるが――


「…何がおかしいんですか」


武器が己の手から離れ無防備な状態なのにも関わらず、紅蓮は余裕を崩すことなく笑っている


「お前さー俺のことまだエクソシストだと思ってんの?言ったよな、俺はノアだってさァ」


己の優位を疑わない、勝者の笑み


「忘れてんの?俺は"憎悪のメモリー"を持つノア…愛結と同じ能力を持つノアだぜ?」


愛結と同じ能力―――その言葉に、骸は目を見開く


「今さら気付いても遅いっつーの」


同じ能力――それは、言葉で"支配"する能力


赤き炎を纏いし俺の剣、篝火!今すぐ骸の身体に風穴を開けな!




ドン――…







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