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―――気付いたら、愛結を抱きしめていたんだ
ツナは固まってしまった愛結に少しだけ笑みを浮かべる
刺された脇腹はもう痛みというよりは熱となって感覚が麻痺しているが、構わず回した腕に力を込める
彼女にとっては振り払うのは容易なはずなのに、それが実行されることはなかった
「だ、いじょ…ぶ、だか…ら…」
今の彼女にならきっと届く――ツナは震える声で言葉を紡ぐ
殺されそうになっているのに何言ってるのだろうと自分でも呆れるが、それが必要な言葉なんだと直感的に感じた
泣きそうな顔で、泣くのをこらえている"愛結"
誰にも受け入れられないと呟いた彼女は、眠っている"愛結"と違うようで本質はとても似ていた
――孤独を恐れる、小さな女の子
『つ、な…、』
その震える声を最後に、ツナの意識はプツリとそこで途絶えた
『―――ばかなこ、』
ずしりとツナの体重がかかり、それでツナが意識を失ったことに気付いたが…それでも愛結は動けなかった
眠っているはずのあの子が、アタシに接触してきたという理由もあった
どうして目が覚めたのかは知らないが…足元はかなりおぼつかない様子だったが、確かにアタシに接触してきた
だがそんな些細な理由よりも――単純に、驚いたのだ
まさか殺そうとしている人間に抱き着かれるだなんて、誰が想像できただろうか?
それを愚かだと一蹴することは、できなかった
『……どうしてそこまで、あの子を信じられるのかしらね?』
愛することから逃げたアタシには理解できない感情だ
突き刺した剣を引き抜こうとするが、出血量からしてこれ以上血を流せば本当に命に関わるだろう
死のうが生きようが関係ない、ただの気まぐれ
ツナの血によって真っ赤に染まった両手を、壁になすりつける
『早く起きなさいよ、愛結』
届くわけもないと知りつつも、小さく呟く
『早く起きないと……あなたの大事なモノ、全部壊れちゃうわよ』
青白い顔をしているツナの脇腹に手を置く
アタシは気が向いたから生かしてあげるけど、他の人もそうだとは限らない
少なくとも紅蓮は間違いなく殺すだろう、何の躊躇いもなく、簡単に
『
"傷は今現在は存在できない。近い未来に存在を預けよう"』
言葉を使って傷を未来に転送して今はなかったことにしながら――無意識のうちに、笑みを浮かべる
―――あなたはどう生きるの?愛結
。
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