悲しき詩 | ナノ




104 闇の華




――愛と憎悪は紙一重の差でしかない


そう書かれていたのはどの書物だっただろうか

好意的か否定的かの違いはあるが、相手のことを強く想っているという点では同じだ


「――だけど、"慈愛"は違うんだよなぁ」


「レロ?ロードタマ?」


ツナに剣を突き刺した愛結…いや、慈愛のノアをその瞳に映しながら、ロードは笑う


「"慈愛"は愛してはいないから、憎悪にも移り変わらない」


愛するという感情は誰もが持つ、自然な感情で、想う"相手"がいる

だが慈愛は違う

その感情を向ける対象が定まっていないのだ

全てを平等に愛する――優劣のつかない愛を、万遍なく不特定多数のモノに与える

それはまるで、聖母のように


「ねぇレロ、知ってたぁ?"慈愛"と"憎悪"というメモリーを持つノアなんて今まで存在していなかったんだよぉ」


「エェッ!じゃ、じゃあ愛結タマと紅蓮タマって…」


「1つのメモリーが2つに分かれたんだよ。昔存在していたのは、"愛のメモリー"」


確かに存在していて、謎に包まれたメモリー、愛


「愛はねぇ、スキンの"怒"とはまた違う激しさを持つメモリーなんだ」


愛のノアは、恋をした

だがそれは無残にも引き裂かれ、ノアは自身の持つメモリーによって苦しみ、壊れた

耐え切れなくなったノアは、自身のメモリーを2つに無理やり引き裂いた

世界を怨み、憎しみに満ちた"憎悪"

もう誰も愛さない悲嘆に満ちた"慈愛"


「そ、そんな話、初めて聞いたレロ…」


「そりゃそーだよぉ、あんまり褒められた話でもないしねぇ」


愛のノアの存在は誰もが口を閉ざす

奏者の資格を保有していた、存在を隠されたノア


「千年公はもしかしたら気付いているのかもね、愛結姉の持つメモリーの歪さに」


後天的にノアの物質を体に受け入れて狂わず生きている、異端者

おそらく"本体"は紅蓮のはずだが…イノセンスという異分子が影響しているのか、かつて失われた"愛"に近いモノが彼女にはあった


「……おっもしろいことになってきた」


高みの見物と決め込んで愛結を見下ろす

ボンゴレを刺した状態で止まっている愛結は……どこか泣きそうな表情をしているようにも見える

ボンゴレは愛結の奥深くで眠りについている"愛結"を起こす王子様になれるのだろうか?

崩壊し続ける方舟の中で、ロードはニヤリと笑みを浮かべた







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