悲しき詩 | ナノ




102



ドガァンッ


『あーら、始まっちゃった』


ハデに火花を散らして戦い始めた紅蓮と骸を見て、楽しげに目を細める愛結

"あの子"の記憶に映る2人は明らかに仲良さそうじゃなかったしな…と内心呟きつつ、残ったツナを観察する

筋肉があまりついていなさそうな、はっきり言って強そうには見えない少年

これが将来イタリアで巨大な勢力を誇るボンゴレファミリーの跡取りだというのだから滑稽だ


『ねぇツナ、アタシたちもヤろっか?』


ノアとしての本能が目の前にあるイノセンスを壊せと訴えてくる

シルフに突き刺さったままだった細身の剣を抜き、軽く振って不快な血を飛ばす

あの子だったら爪を伸ばして、となるのだが"アタシ"はエクソシストではないからそれはできない

近接戦ではこういう武器に頼るしかないのだ


『…?何してるの?早く構えなさいよ』


こちらは戦う準備万端だというのに、ツナは死ぬ気丸を飲むことすらせずただ立っているだけ


「……愛結、ちゃん」


『何よ』


「……早く起きてよ、愛結ちゃん!」


どうやらツナの呼ぶ"愛結ちゃん"はアタシではなくあの子のことらしい


『無駄だって。あの子にアンタの声は届かないって』


奥深くで眠りについたあの子にはアタシの声ですら届かない

過去を受け入れることができず、アタシを受け入れることもできず、ただ全てを拒絶したあの子

全てを拒絶してまで自分を否定されるというのは気分のいいものではない

自分に否定されたら、アタシは一体誰が肯定してくれるというのか


「…っ、で、でももしかしたら、届くかもしれない!」


『無駄よ。届くわけがないわ、いい加減諦めたら?』


苛々する

何故、このひ弱そうな少年はあの子のことここまで信じられるのだ?


「起きてよ愛結ちゃん!みんなで並盛に帰ろうよ!骸だって、愛結ちゃんを待ってる!」





―――愛結のこと、頼みましたよボンゴレ





「俺を憎んでるはずの骸が、俺に頼むって言ったんだ…!それだけ愛結ちゃんのこと、」


いらいら、する


『―――黙りなさい


分かってはいた。アタシが誰にも必要とされていないことは

そう、分かってはいたが―――


『全部、耳障り…!』


――苛々するのだ





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