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『
うるさいうるさいうるさい。耳障りな声で喚かないで頂戴』
愛結がここにきて初めて口を開いた、のだが――"コレ"は、一体何だろうか
『
あなたがノアに?寝言は寝てから言いなさい。なれるわけないでしょう?あなたは利用されたの。"アタシ"を目覚めさせるためだけに』
この場を支配しているのは彼女の声だった
体を動かすことが出来なくなるほどの強制力
まともに"ソレ"を受けているであろうシルフは息をするのも辛そうで、青白い顔でガタガタ震えている
その様子に、彼女の言葉が届いているかは定かではないが…そんな些細な事、"彼女"にとってはどうでもいいことだった
『
目覚めさせてくれてアリガトウ?――だからもうあなたはイラナイ』
ドンッ
「……え、」
僅かな衝撃を感じたシルフの口から、赤い血が溢れ出す
信じられないとばかりに見開かれた瞳に映ったのは、自分の胸に深々と突き刺さっている、1本の剣
『
オヤスミ、シルフ。いい夢を永遠に見て頂戴ね』
短剣を投げつけた彼女は、楽しげに笑う
その瞳の色は、空色とはかけ離れたモノだった
「……っ」
糸が切れた人形のように倒れ、自身の血で紅く染まっていくシルフを直視できず、ツナは目を逸らす
……この現実を、認めたくなかったのかもしれない
『あはっ、あっけなく死んじゃった』
「そりゃお前に言葉で命令されちゃ死ぬことしかできないだろ」
「相変わらず怖いねぇ愛結姉の能力!」
『ふふっ。目覚めたてにしては上手く言葉が出たかしらね?』
鉄っぽい臭いが広がる空間に、場違いな明るい声
「…っ、愛結…ちゃん……」
名前を呼ぼうにも、掠れた声しか出てこない
『ん?あぁ、あなたは"ツナ"よね?あの子の記憶によく映っていたわ』
クスクス笑う
『でもあなたとアタシはハジメマシテ』
右目は、透き通るような青い瞳
『アタシはこの子の中でずっと眠っていた慈愛のノア。だから愛結であって愛結じゃないの』
左目は、闇を閉じ込めたかのような光のない漆黒
『あの子は今奥深くで眠りについてる。あの子がアタシというノアを認め、受け入れない限りあの子はずぅっと眠ったまま……アタシが"愛結"となるの』
瞳の色と共に、変わってしまった愛結――否、ノア
「うそ、だろ……?」
ツナらはただ呆然と、笑う彼女を見つめることしかできなかtった
。
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