悲しき詩 | ナノ




98



うるさいうるさいうるさい。耳障りな声で喚かないで頂戴


愛結がここにきて初めて口を開いた、のだが――"コレ"は、一体何だろうか


あなたがノアに?寝言は寝てから言いなさい。なれるわけないでしょう?あなたは利用されたの。"アタシ"を目覚めさせるためだけに


この場を支配しているのは彼女の声だった

体を動かすことが出来なくなるほどの強制力

まともに"ソレ"を受けているであろうシルフは息をするのも辛そうで、青白い顔でガタガタ震えている

その様子に、彼女の言葉が届いているかは定かではないが…そんな些細な事、"彼女"にとってはどうでもいいことだった


目覚めさせてくれてアリガトウ?――だからもうあなたはイラナイ


ドンッ


「……え、」


僅かな衝撃を感じたシルフの口から、赤い血が溢れ出す

信じられないとばかりに見開かれた瞳に映ったのは、自分の胸に深々と突き刺さっている、1本の剣


オヤスミ、シルフ。いい夢を永遠に見て頂戴ね


短剣を投げつけた彼女は、楽しげに笑う

その瞳の色は、空色とはかけ離れたモノだった


「……っ」


糸が切れた人形のように倒れ、自身の血で紅く染まっていくシルフを直視できず、ツナは目を逸らす

……この現実を、認めたくなかったのかもしれない


『あはっ、あっけなく死んじゃった』


「そりゃお前に言葉で命令されちゃ死ぬことしかできないだろ」


「相変わらず怖いねぇ愛結姉の能力!」


『ふふっ。目覚めたてにしては上手く言葉が出たかしらね?』


鉄っぽい臭いが広がる空間に、場違いな明るい声


「…っ、愛結…ちゃん……」


名前を呼ぼうにも、掠れた声しか出てこない


『ん?あぁ、あなたは"ツナ"よね?あの子の記憶によく映っていたわ』


クスクス笑う


『でもあなたとアタシはハジメマシテ』


右目は、透き通るような青い瞳


『アタシはこの子の中でずっと眠っていた慈愛のノア。だから愛結であって愛結じゃないの』


左目は、闇を閉じ込めたかのような光のない漆黒


『あの子は今奥深くで眠りについてる。あの子がアタシというノアを認め、受け入れない限りあの子はずぅっと眠ったまま……アタシが"愛結"となるの』


瞳の色と共に、変わってしまった愛結――否、ノア


「うそ、だろ……?」


ツナらはただ呆然と、笑う彼女を見つめることしかできなかtった




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