悲しき詩 | ナノ




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『―――、』


「愛結ちゃん!!」


死ぬ気の炎が掻き消え、いつもの状態に戻ったツナは愛結の名を叫ぶ

紅い髪が表情を隠してしまって見えないが、ゆっくりと上半身を起こした愛結はツナの声に反応を示す気配はなかった


「――オハヨウ。気分はどうだ?"慈愛のノア"」


先程までの殺気が嘘のように、紅蓮は笑みを浮かべて愛結に話しかける


「あー!愛結姉、目覚めたんだぁ」


「よォ、おはよーさん」


ロードとティキもそれぞれの相手から目を離し、嬉しそうに声をかける

皆、愛結の目覚めを喜んでいるのがよく分かる


『………』


だが愛結はそれらの声に応えることはなく、俯いたまま目元を軽く押さえている


「愛結、ちゃん…?」


声が届いていないかのように、何も反応を示さない愛結の名をツナは不安げな声で呼ぶ

アレンもリナリーたちも、ただじっと彼女を凝視している

そんな、緊迫した空気の中


「―――…起きたんだ、高井愛結!」


それを壊したのは興奮した様子のシルフだった

場違いな程明るい声で、喜びを隠しきれない声でまくし立てていく


「起きたということは記憶が完全に戻ったってことだよね?あぁ、これで僕の仕事が終わった!僕の"願い"、叶えてくれますよね紅蓮さん!!」


シルフは気付いていない


「言いましたよね!高井愛結が目覚めたら僕も紅蓮さんたちと同じノアにしてくれるって!」


辺りを包む、酷く凍えた空気に、気づいていない

ツナらはその空気に――否、殺気に背筋が凍る

それは、間違いなく"彼女"から発せられていた


「ねぇ、紅蓮さん!」


名前を呼ばれ、紅蓮は笑みを浮かべる

だがそれは――僅かに憐みを浮かべた、嘲笑

何も知らず、利用されるだけ利用された憐れな道化に対する同情





『―――黙りなさい、シルフ





ぴしりと、空気が張りつめた音がした




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