悲しき詩 | ナノ
96 xxx
「はじめまして、お嬢さん。ご機嫌いかがかな?」
『………だぁれ?』
「これは失礼。私はマルコム=C=ルベリエ。お嬢さんの名前は?」
『…愛結……高井、愛結…』
「そう、愛結。では何故君がここにいるのか覚えているかね」
『……なぜ、……分からない…』
「ふむ」
記憶が曖昧になっているようだったが、それは男にとって好都合なものだった
コムイ・リーが室長となって"実験"が禁止されてしまっている以上、この少女の出自は邪魔でしかない
どう口止めしようと考えていたが必要なかったようだ―――男はまだ幼い少女を見下ろす
「……君はご両親をアクマによって殺されて1人になっていたところを我々が保護したのだ」
『あくま…?』
戸惑っている少女を無視してひたすら話し続ける
「君は"偶然"、その瞳のイノセンスを宿していた為アクマたちに殺されずに済んだのだ。そして1人呆然と座り込んでいたところを我々が発見し、保護した」
『…、…』
「ショックも大きかっただろう、少し記憶が曖昧になっているみたいだね」
ポン、と少女の頭に手を置き、なるべく優しく聞こえるよう言い聞かせる
「君のご両親と私は古くからの知り合いでね。知っていることは全て教えてあげよう。そのうち記憶も戻るかもしれないしね。それまでは我々と、この黒の教団でゆっくり過ごせばいい。君の安全は私が保証しよう」
『、はい…』
何も知らない少女は男の言葉を信じ、安心したように笑みを浮かべる
「さぁ、ここが君の新しい"家"だ」
―――そう言ったのは、誰だっただろうか?
「僕の妹と年頃が近いね、愛結ちゃんは」
少しだけ悲しそうに笑ったこの人の顔が、黒く塗りつぶされていく
"記憶"に残る全てが黒く、黒く塗りつぶされていく
「ん?お前新入りか?暇だな?暇だよな??この書類整理してくれ、頼むマジで」
―――あぁ、もう声すら色を失っていく
「愛結ちゃん」
誰かに呼ばれたのを最後に、全ては黒く塗りつぶされた
"私"は―――何?
。
[ 265/461 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]