悲しき詩 | ナノ




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「―――ねぇ姉さん、何で本気でこないの?」


シルフは手に持つ武器を弄ぶようにクルクルと回す

余裕そのもののシルフに対し、ユミは地に膝をつき荒い呼吸を繰り返していた


「戦う武器であるイノセンスも持ち主が無能だと宝の持ち腐れ、だねー」


ユミの装備型イノセンス"白鞭"

名前の通り白色の長い鞭で、使い方次第では攻守両面で役に立つことができる、可能性に満ちた武器だと言えるだろう


「ただ振り回すだけじゃ意味ない、よっ!」


ドンッ


「きゃあっ!」


棒で腹を突かれて吹き飛ばされる


「本気で来ないと、本当に殺しちゃうよ?手加減するのも疲れるんだよねー」


「、な…なんで…」


受け入れることのできない現実に、ユミは切れ切れながらも言葉を紡ぐ


「なんで、なんでこんなこと…っ」


「"なんで"、ねぇ。まだそんな甘いこと言ってるの?」


ため息をつく


「僕はねぇ、オトウサンとオカアサンに僅かな金で研究施設に売られたの。で、散々好き勝手体をいじられて、結果このイノセンスを手に入れたの。アンタがキャーキャー楽しくやってる間僕は地獄にいたの。分かる?」


「……っ、」


「紅蓮さんも、高井愛結だってそう。僕たちは姉さんたちの"ギセイ"になったんだ。生きていること自体がまるで奇跡のような偶然。何人死んだんだろうね?何百何千もの人が、姉さんたちのために死んだんだよ」


酷く楽しげな笑みを浮かべるシルフ


「だから、次は姉さんたちの番。何も知らず生きてきた姉さんも、僕が味わった全てを教えてあげようかなって。脳をいじられる経験って貴重だと思うよ?」


脳にあるイノセンスは実験によって得られたモノ

精神攻撃を得意とするシルフなら、相手に自分の過去を追体験させることぐらい簡単に行うことができるだろう


「シ、シルフ…う、ううそよね?シルフはそんなことしないよね…??」


「はは、姉さんの知ってる"シルフ"なんてどこにもいないんだよ。今ここにいる僕が本当の"シルフ"」


ニコニコといつものように笑うその姿に、正気の色は見えない

弟のはずなのに、まるで全く知らない人のような感覚にユミは怯える


「はははっ!僕が生き延びた"地獄"……姉さんに耐えれるかなぁ?」


じゃあね、姉さん


その瞬間―――ユミの"視界"がガラリと変わり、おぞましい光景が広がった


「い、あ、あああああぁぁぁぁあっ!!!」







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