悲しき詩 | ナノ




92



「お前らエクソシストのために、俺らが何人死んだと思ってんだ…何でテメェらのために俺らが実験体にならねェといけねーんだよ!!」


ギリギリと剣を持つ手が震える


「俺も愛結も、犠牲になる必要なんてどこにもなかった!テメェらが呑気に笑って温けー飯食べてる間に俺らは冷たい残飯漁って想像もつかねーだろう苦痛と絶望を味わった…!アイツを本当に理解してやれるのはお前みたいな生ぬるい水に浸かってきたヤツじゃねーんだよ!」


初めて、紅蓮が声を荒げる

余裕気な笑みはどこにもなく、そこにいるのは大事なモノを奪われまいと必死に抵抗する子供のようで


「俺だけが…この俺だけが、アイツを理解してやれる。"あの時"一緒にいた俺だけが、アイツと同じ存在となった俺だけが。アイツを愛してやれる。お前じゃねぇ…!」


濁った目ではあったが、それは真剣そのものだった

ツナは詳しい事情は何も分からない。2人の間に何があったのか、彼らが味わった絶望と苦痛も想像することすらできない

重みがある言葉から、相当酷いことをされたことは十分過ぎる程伝わってきた

同情、すべきなのかもしれない

だが、それでも―――


「………違う、お前のそれは、"愛情"じゃない―――"依存"だ」


依存

その言葉に紅蓮は目を見開く


「お前は愛結ちゃんに依存しているんだ。"愛している"といって目を逸らしてるだけだ」


愛情と言う殻で覆われた依存……いや、自己愛とすら言えるかもしれない

今の紅蓮は愛結を奪われまいと、幼い子供が自分の玩具を守るようにしがみついているだけに見える

自分から離れていくのを繋ぎとめようと、必死に


「愛結ちゃんはもうその"依存"から抜け出そうとしてる。それを邪魔しているのは紅蓮、お前だよ」


教団にいて皆と一緒にいた時は、それで良かったのかもしれない

だが……いつまでもずっと同じではいられないのだ


「……、」


「確かにお前と愛結ちゃんの間には俺たちにはない"絆"があるんだと思う。でも、それに縛られてたら新しい"繋がり"は生まれない」


紅蓮はそれでいいと他を拒絶し、愛結は手を伸ばした

踏みとどまったか、踏み出したか――ただそれだけの違いだ

ノアとかエクソシストとか関係ない

首元にある篝火を軽く押せば、ガシャンと音を立てて床に転がる


「依存するためになんて理由で、愛結ちゃんを渡すわけにはいかない」


紅蓮と愛結だけの世界なんて、寂しすぎるではないか


「…………」


俯いている紅蓮の表情を伺うことは難しい

不気味なほど、一言も喋らない紅蓮を、ツナは静かに見据えた







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