悲しき詩 | ナノ




91



「―――っ!!」


間一髪、だった

ツナが直感的に体を逸らしたその場所を、篝火が貫いていた

もし一瞬でも反応が遅れていたら……きっとツナの体は串刺しとなっていただろう


ポタリ


「――だけどまぁ、無傷ってワケじゃないみてェだな」


篝火についた血液を指でふき取る


「く…っ」


ポタポタと腕から溢れてくる血を手で押さえ、荒い呼吸を繰り返すツナ

動けなくなる程の切り傷ではないのが不幸中の幸い、といったところだろうか


「…!血が、」


その決して浅くはない怪我に、クロームが思わずツナに駆け寄ろうとしたが…


「!ダメだクローム!!」


「え、」


「…敵から意識逸らすなんて、バカじゃねーの?」


あ、と思った時にはもうクロームの体は吹き飛ばされていた


ドォォン…


「クローム!!」


戦い慣れていないクロームの身を案じて、意識が逸れる

そしてそれを紅蓮が見逃すはずもなくて


「お前らさぁ…マジで俺のこと舐めてんの?」


少しでも動けば首が落ちるだろう位置に篝火をかざし、紅蓮は冷めた目でツナを見る

少し切れたのか、血が首をつたっていく


「―――お前は…」


そんな、命を紅蓮に握られた状況下にも関わらず、ツナはゆっくりと直感に従って言葉を口にする


「お前は、愛結ちゃんの、"何"だ?」


「……は?」


馬鹿かと言わんばかりのその表情にも臆することなく、言葉を続ける


「愛結ちゃんは俺たちの"仲間"だ。――お前の"モノ"じゃない」


「………」


すっと表情を削ぎ落した顔で紅蓮はツナを見る

何の感情も込められていないその目に、この言葉がどれだけ届くのかは定かではないが…


「俺は、死ぬ気で愛結ちゃんを取り返す。紅蓮、お前がどれだけ邪魔してきても」


「………お前らに、」


無機質な瞳に、感情が宿る


「お前らに、俺たちの何が分かるっていうんだよ……」


――深くて底の見えない"憎悪"で濁った瞳





[ 260/461 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -