悲しき詩 | ナノ




87 存在定義




ガッシャーンッ


「…ま、各人やりはじめたみてェだなー」


ツナとクロームを前に全く気負った様子のない紅蓮


「ティキはアレン、ロードはラビ、シルフはユミ……ま、妥当な相手か」


特別興味もなさそうな表情で呟いたかと思えば、手に持った大剣の切っ先をツナらに向ける


「この間みたいなツマラン戦いにはしてくれんなよ?退屈過ぎてすぐ殺しちまったら勿体ないだろ」


「…今度は負けない…!」


「はっ、どうだか。いいぜ、愛結が目覚めるまで暇なんだ、相手してやるよ」


おもむろに大剣"篝火"に右手を添え、嗤う


「アイツが目覚めたらコレも壊すって決めてんだし、最後くらいエクソシストらしくイノセンス使って戦ってやる」


「…っ」


戦うことが楽しくて仕方がないとばかりの紅蓮に恐怖や緊張といった色は全く見えない

半分の力しか引き出せていないのにも関わらず驚異的な破壊力を持つ"篝火"――まともに当たれば怪我ではすまない


「イノセンス解放―――"紅花火"」


篝火の刀身が赤く輝き、光は薄い炎となって刀身を覆った

初めてみるそれに、本当に今までは手加減されて…遊ばれていたことを悟る

そして今回は、本気で殺しに来るということも――…


「お前の炎と俺の炎…どっちが熱いか見物だな」


それに、と視線をクロームへ移す


「お前のその能力にもちょっとだけ興味あるし」


かちゃりと、剣先を2人に向けて、楽しくて仕方がないとばかりに笑う


「さぁ、楽しい楽しいショーの始まりだ!」


その言葉と同時に、紅蓮は地を蹴って2人に斬りかかった










そんな、3人から少し離れた場所で、ユミは現実を受け入れることができずただただ固まっていた

これは嘘だと思おうとするも…目の前にいる彼が、現実逃避を許してくれない


「な、んでここに、あなたが……」


「はは、久しぶり姉さん。どう?従順で可愛い弟から武器を向けられた感想は」


いつもと同じように笑うシルフなのに、向けられる武器も殺意も、全てホンモノだった

ホンモノだからこそ――受け入れることができない

何故なら自分の弟はこんなことできる子ではないと"信じている"から…彼が自分を傷つけることなんて、絶対に、あり得ない

そんなことがあっていいはずがない




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