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―――そう、俺はあの日"逃げた"
愛結が彷徨っているであろう夢の内容を想像し、自嘲気味に口許を歪めた
逃げたことが間違っているとは今でも思わないし、何度あの瞬間に戻っても同じ選択をするだろう
だが……後悔しなかった日は、一度だってなかった
"レン"は追手を振り切り逃げ切ることができたが、愛結は教団へと連れて行かれた
「………イテェな」
もう痛みもない右手の掌を見つめ、小さく呟く
爛れて腐り落ちる寸前だった腕も、自分のモノかのように操ることができる
痛みなんてもう残っていないはずなのに――何故、こんなにも苦しいのだろうか
がちゃり、扉をゆっくりと開けば中にいた2人がこちらを振り返る
「あ、紅蓮じゃぁん」
「どこ遊びに行ってたんだよ」
「んー、ちょっとなー」
ロードとティキの追及を軽くかわし、軽く手をあげるが…そこで2人の服装がいつもと違うことに気付く
「何、その恰好。何かあったか?」
正装と言っても差し支えないそれに、ロードはニコニコと笑いながら説明をする
「紅蓮もちゃんとした格好してきなよぉ?もーすぐアレンたちが来るんだからさぁ」
「あ?スキンや双子が邪魔しに行ったんじゃなかったんか?」
「スキンは神田ユウに、ジャスデビはクロウリーってヤツと相打ちだってさ」
へぇ、と興味のなさそうな声で返事をし、いまだ目を覚ますことのない愛結へ近づく
彼にとって、愛結以外の人間はどれも興味のない存在だった
「愛結も連れて行ってやらねーとな」
横抱き(所謂お姫様抱っこ)をし、その左目に軽いキスをする
「もう"夢"は終わったんだ、じき"目"が覚める」
あの日みたいに、手放したりはしない
力がなかった弱い自分はもういないのだ――この小さな体を守るだけの力は手に入れた
今度こそ、怖いオトナたちから守ってみせる
―――迎えに来るって約束しただろ?
これが、"レン"と呼ばれた紅蓮の誓いだった
あの日誓ったコトバ
もう、放さない
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[mokuji]
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