悲しき詩 | ナノ
79
ジリリリリリリリ
『―――、れ、ん…?』
どさりと倒れた男の背後にいたのはレンで…愛結は小さくその名を呼んだ
「…愛結…そうか、お前が……」
血で濡れたメスが、レンがオトナを刺殺したことを証明する
右腕の肘下部分から下がレンの体格に合わない大きさのモノとなっており――"廃棄"と言われたのも納得がいく程、その接合部分は酷く膿んでいて痛々しいものだった
虚ろな表情の愛結とは対照的に、レンの瞳は――"憎悪"でギラギラと光っている
不気味なほど音のない世界
『……わたしが、コレ…やったの……』
血の臭いが充満した室内
レンも、愛結もまた全身血で汚れていた
『………わたし、ばけものに、なっちゃったんだね』
「…逃げよう、愛結。ふたりで、遠くに行こう」
暗い目でブツブツと呟く愛結に、レンはそっと触れようとする
逃げなければつかまってしまう……この警報音が鳴り響いているのだ、増援だってもうすぐここへやってくるだろう
だが、その手が愛結に触れられることはなかった
ズ キ ン
『っうああああぁぁぁああっ!!』
未だかつて味わったことのない激痛が、愛結の脳を揺らした
まるでバットで何度も頭を強打されているかのような、とてつもない激痛
「っおい!?」
うっすらと、微かにだが愛結の額に、十字架が浮かび上がっているのを見てレンは言葉を失う
『に、げて……っ』
「……っ」
のばされた手は、触れられることなく下ろされた
――分かっているのだ、この状況で愛結を連れては逃げられないことも
自分1人なら逃げられることも、迫りくる足音から悩む時間は残されていないことも
「また、また絶対に迎えにくるから…っ!」
泣きそうな顔で…否、泣きながら悔しさの滲み出る声で絞り出した言葉は、誓いの言葉
『……ん、』
苦しげな表情を少しだけ和らげ、小さく微笑んだ愛結
そのまま振り返ることなく走り去っていく後ろ姿を見送った後―――そのまま、糸が切れた人形のように後ろへ倒れていく
――バタン!!
その直後
地獄絵図と化した室内に、研究員たちが立ち入ったのは
。
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