悲しき詩 | ナノ
78
だが、アツサは急激に、唐突に消え去った
激痛にチカチカしていた視界が急に広がり、世界に鮮明さが戻ってきた
汚いオトナが、口々に何かを言いながら愛結を見下ろしている
先程まで身を灼いていた激痛も消え去り、漆黒の瞳は最初からソコにあったかのように、当たり前のようにソコに存在していた
―――残ったのは、"熱"
―――狂おしい程にこの身を支配する"感情"
ぴたりと抵抗を止めた愛結に、研究員たちは興奮を隠せない
「成功、か!?」
「おい!早く拘束具を壊して検査だ!」
「やった、やったぞ…!とうとう成功したんだ!!」
狂喜乱舞といった様子の彼らは、気付いていない
無遠慮に触っている彼女の表情などに注意を払っていないから、気付くはずもなかった
先程"廃棄"だと結論付けた彼の変化に、成功したと確信している彼女の変化に
猿轡の役割を果たしていた布が取り払われた時―――愛結はゆっくりとそれを発した
『そのような汚れた手など、消え去ればいい』
「……え…?」
奇妙な声が響いたと同時に――彼女に触れた研究員たちの腕が、唐突に消失した
「あああああああああぁぁぁああ!!!?」
一瞬で、周囲は地獄絵図と化す
酔いそうなほど濃い血の匂いが充満する中、愛結はゆっくりと顔をあげる
澄み切った青と、闇を閉じ込めたかのような光のない黒
『いらない…ぜんぶ、いらない…』
片腕を消された男は"恐怖"に身を震わせながらまだ幼い少女を凝視する
返り血を拭おうともせず、無表情であの奇妙な声を出す少女―――コレは、なんだ
「…あ、あは…あはははは!!」
恐怖で気が狂った男は甲高い声で喚き散らす
「成功だ!成功したのだ!!俺らを散々馬鹿にしてきた連中ではなく、俺たちが!成功させたんだ!!邪魔な奴らなんていつだって殺せる!!あは、あはははは!!」
血走った目に正気の色はどこにもない
異常を感知したのだろう、警報が鳴り響く中男は…狂った男は引きつった笑い声をあげるだけ
「あははははは、は?」
どすんという鈍い音と共に、自分の胸に生えたメスを見つめたのを最期に――男の生涯はあっけなく幕を閉じた
。
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