悲しき詩 | ナノ




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だが、アツサは急激に、唐突に消え去った

激痛にチカチカしていた視界が急に広がり、世界に鮮明さが戻ってきた

汚いオトナが、口々に何かを言いながら愛結を見下ろしている

先程まで身を灼いていた激痛も消え去り、漆黒の瞳は最初からソコにあったかのように、当たり前のようにソコに存在していた


―――残ったのは、"熱"


―――狂おしい程にこの身を支配する"感情"





ぴたりと抵抗を止めた愛結に、研究員たちは興奮を隠せない


「成功、か!?」


「おい!早く拘束具を壊して検査だ!」


「やった、やったぞ…!とうとう成功したんだ!!」


狂喜乱舞といった様子の彼らは、気付いていない

無遠慮に触っている彼女の表情などに注意を払っていないから、気付くはずもなかった

先程"廃棄"だと結論付けた彼の変化に、成功したと確信している彼女の変化に

猿轡の役割を果たしていた布が取り払われた時―――愛結はゆっくりとそれを発した










そのような汚れた手など、消え去ればいい










「……え…?」


奇妙な声が響いたと同時に――彼女に触れた研究員たちの腕が、唐突に消失した


「あああああああああぁぁぁああ!!!?」


一瞬で、周囲は地獄絵図と化す

酔いそうなほど濃い血の匂いが充満する中、愛結はゆっくりと顔をあげる

澄み切った青と、闇を閉じ込めたかのような光のない黒


いらない…ぜんぶ、いらない…


片腕を消された男は"恐怖"に身を震わせながらまだ幼い少女を凝視する

返り血を拭おうともせず、無表情であの奇妙な声を出す少女―――コレは、なんだ


「…あ、あは…あはははは!!」


恐怖で気が狂った男は甲高い声で喚き散らす


「成功だ!成功したのだ!!俺らを散々馬鹿にしてきた連中ではなく、俺たちが!成功させたんだ!!邪魔な奴らなんていつだって殺せる!!あは、あはははは!!」


血走った目に正気の色はどこにもない

異常を感知したのだろう、警報が鳴り響く中男は…狂った男は引きつった笑い声をあげるだけ


「あははははは、は?」


どすんという鈍い音と共に、自分の胸に生えたメスを見つめたのを最期に――男の生涯はあっけなく幕を閉じた




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