悲しき詩 | ナノ
76
無遠慮に手を引かれ、愛結は痛みに顔をしかめる
そのまま手術台に乗せられ、手足を頑丈に固定される
『い…っ』
そこに配慮や加減なんて気遣いはなく、仕上げとばかりに口の中に布を押しこめられる
麻酔なんてモノ、使うわけもなくショックで舌を噛み切ることがないようにいつもこうやって布を押しこめられるのだ
唯一動かせる顔を横に向ければ、離れた場所で同じように四肢を固定されたレンの姿が見える
『……っ、』
怖い
どんなに諦めたフリをしても、どれだけ納得したフリしても、恐怖が安らぐことなんてない
固く目を閉じ、この悪夢が一刻も早く終わることを祈るしか出来る事はない
今日は一体どんなことをされるのか――目を閉じ、耐え抜く覚悟を決めた時――
『…!?』
その唯一自分の意思で動かせた瞼でさえ器具によって固定され、瞬きすら奪われてしまい、半ばパニック状態に陥ってしまう
『ん―!んん!!』
必死に声をあげようとするも、それは全て布に奪われて言葉になることはない
「おい、例のサンプルを」
「どちらにしましょうか」
「目を固定しているんだからそれがこちらに決まっているだろう、もう片方は任せたぞ」
「はい」
オトナが、愛結の視界に入る
「喜べ、お前は今から我々の"誇り"となるのだ」
見下ろすその顔は、その目はギラギラと熱っぽく……正気だとはとても思えなかった
――怖い
「メスを」
――恐い
ぴたりと付けられたメスが視界いっぱいに広がり――これから起こる"悪夢"を悟ってしまう
――誰か、助けて
ザクリ
。
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