悲しき詩 | ナノ




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『―――ねぇ、レン』


長い長い廊下を研究員たちに引っ張られながら歩く少女――"愛結"

小走り気味に歩きながら、隣にいるレンに話しかける声は、やけに静かなものだった


「……んだよ」


その顔は抵抗したせいで真新しい青あざがたくさんでていて痛々しいが、それは愛結もまた同じだった


『今だから聞くけど…レンの本当の名前って、何?』


研究員たちは実験体が何喋っていても興味がないのか、咎めることも振り返ることもせずただ歩いて行く


「何だよいきなり…」


『だって、前聞いた時教えてくれなかったじゃん?だからあたしが勝手に"レン"って呼んでるんだけど、できれば本当の名前で呼びたいなって思ってさ、』


最期に、という言葉は飲み込む


「………俺に名前なんてねーよ」


その言わなかった言葉が分かったのだろう、長い沈黙の末口を開く


「俺に名前なんてねーよ。それとかお前とでしか呼ばれたことねーし、ないものを教えれるわけないだろ」


物心ついた頃から貧民街にいて、その日生きていくのがやっとだった自分に名前なんてあるわけなかった


『そ、っか…』


初めて聞く事実に一瞬言葉を詰まらせるも、すぐ口を開く


『あたしね、ニホンで生まれたんだ』


「は?」


突然脈絡もない話をし出した愛結にレンは訝しげな視線を向けるも、気にすることなく言葉を続ける


『だからあたしの名前は漢字だし、むっくーたちの名前も漢字があるでしょ?』


目的地であろう部屋がだんだん近づいてくる


『レンにもね、あるんだよ漢字。レンっていうのはニックネーム!むっくーみたいな感じなの』


得意げに笑ってその"名前"を口にする


『"グレン"。紅の蓮で紅蓮っていうんだよ。レンにあげるね、この名前!』


燃え盛る炎――そしてとても綺麗な蓮の花


「ぐれん…?」


『漢字は自分で調べて書いてね。きっと気に入ると思う!』


ギギィ、と鈍い音を立て扉が開かれる


『だから、死なないでね…』


目の前に広がる、幾多の実験器具たちを見てポツリと呟いた




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