悲しき詩 | ナノ




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「………本当、いい気なもんだよね」


ひたすら眠り続けている愛結を見下ろし、ぽつりと呟いたのはシルフだった

手間暇かけて調べた結果、愛結にある"精神プロテクト"を解くカギが"記憶"だと突き止めることができた

カギが分かれば後は簡単で、奥底にしまわれてしまっていた記憶を引きずり出し、思い出させるかのように追体験させれば――全てを思い出す頃にはこのプロテクトもなくなっているだろう

便宜上プロテクトと呼んでいるが、"コレ"が何であるのかはシルフには分からない。壊せと言われたから壊しているだけで、これが何のために愛結のナカに存在しているのか、興味もない

先程聞こえてきた轟音から、邪魔者…他のエクソシストたちがココへ侵入してきたということも察するが、焦ることはなかった


「あの"実験"に成功しないで死んでいれば良かったのにね」


そっと赤い髪に触れ……ギリ、と無造作に強く握りしめる

――エストラーネオファミリーの狂った実験の成功体は、高井愛結と六道骸だけではない

シルフ自身もまた、あの地獄から這い上がってきた人間だった

彼らがいた施設は六道骸によって破壊されたが、場所を替え生き残りによって実験は密かに続けられた

シルフは言わば第二期生、といったところだろうか

成功例ができてしまい、研究員たちの狂気はさらに過激なものとなった

黒の教団が裏から資金援助をしていたのでカネに困ることなく、次々と子供たちを買っては実験体として"消費"していった

希少なエクソシストがこの実験によって生み出されたのだ、もっとできるかもしれないと欲にかられたオトナたち

事実、自分が新たに"作られた"

逃げることも叶わず、そのまま教団へと献上され――普通に生きる権利を奪われた

売られることなく呑気に育てられた愚かな実姉が当たり前かのように"普通"に生きていけているのに、シルフにはそれが許されなかった


「ほんと、みーんな死ねばいいのに」


何も知らない愚かなピエロのような姉も

全て忘れてのうのうと生きていた愛結も

ピエロに騙されて醜く踊るエクソシスト達も

腐った大人も、見て見ぬふりした子供たちも

―――全て、消えてしまえばいい!


「ふ、ふふふ……」


紅蓮だけが、この"怒り"を理解してくれた

彼もまた、狂った運命に怒りを感じていたから

彼がいたから、ノア側についた

エクソシストだから、なんて躊躇うことは一瞬たりともなかった


「"俺らを切り捨てた世界なんて、こちらから捨ててやればいい"」


そう、世界から要らないと、犠牲になれと言われたのだ

だったらこんな世界、こちらから壊してやる


「約束、したんだ」


これが全て終わったら、全部全部終わったら――自分も彼と同じ、"ノア"にしてくれると、紅蓮は約束してくれた

彼と対等な存在になれる、そう思ったら憎い愛結の傍にだっていることができる


「ふふ、はははははっ!!」




―――心が壊れてしまった少年の狂った笑い声も…今の愛結には届くことはなかった







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