悲しき詩 | ナノ
58
部屋に入ってきた大人たちは、いつもの"品定め"をする素振りも見せず、目的は決まってるとばかりにツカツカと歩いて行く
『、え…っ』
――目の前で立ち止まった大人たちを見て、少女は震える声を漏らした
「立て」
グイッ
力任せに無理やり腕を掴みあげられる
「お前もだ」
そう言って視線を向けられたのは、睨みつけるように強い目で見ているレンだった
「っ離せ…!」
『や、やだ…はなしてっ』
いつもは諦めたように、大人しく連れられていく少女が、今日初めて反抗した
「この…!」
だがその抵抗も、苛立った大人たちに力任せに殴られ次第に動きが鈍くなっていく
「愛結…っ」
それを止めることができない骸は、もどかしげに少女の名前を呼ぶことしかできない
そんな彼に、少女はいつもと同じように少しだけ笑みを浮かべる
『…、だいじょーぶ、だよむっくー…いって、くるね…』
あのいつもの、諦めたような笑みを浮かべ、愛結とレンは無理やり大人たちに連れられていく
――バタン
「……行っちゃいましらね」
「……」
骸はジッと、少女たちが消えた扉を見つめる
不安感に怯える少女には言えなかったが、嫌な予感がしていたのは彼女だけではなかった
骸自身もまた、ここ数日胸騒ぎがしてよく眠れていなかった
「……きっと大丈夫ですよ」
それはまるで自分に言い聞かせるためのようで
「いつも、ちゃんと帰ってきてくれたじゃないですか」
傷つけられ、それでもただいま、と無理やり笑みを浮かべていた少女
「だから、きっと……」
―――だがこの日を最後に、少女らは骸たちの前に姿を見せることはなかった
。
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