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「ユキエ…っ、」
体温を感じられない手を握りながら、クロームが懸命に話しかけている
「……っばー、か…何ないて、んだ……」
痛みで喋れる状態ではないだろうに、ユキエは無理やり笑みをつくってクロームに話しかける
「きに、す……な、どーせ、ながく…なかった…」
駆け寄ってきたアレンはユキエの惨状に目を見開く
「ユキエ!!」
「うるせー、なぁ…でし、の、くせ、に…」
いつもの憎まれ口を言いつつも、ユキエの顔はどこか穏やかなものだった
もしかしたら治るのかもしれない――そう僅かに希望を抱いた時
「わりー、な。オレはココで、リタイヤだ」
さらさらと、ユキエの足先が砂になって消えていくのを見て、言葉を失う
「ゆき、」
「オレは、」
ツナの声を遮るように、上半身だけとなったユキエは――笑顔を浮かべた
「オレは、たのしかったぜ…!ツナ、クローム、アレン…!」
最期の最後に、初めて名前を口にしたユキエは笑顔のまま―――その体を砂へと変えた
「……最後に名前を呼ぶなんて、狡いですよ、ユキエ」
残った砂を手に取り、小さく小さく呟く
「―――俺、何もできなかった…」
「ツナ、」
「守るって、決めたのに…!」
ユキエが身を呈して守ってくれなければ、今頃クロームだって……
泣きそうな顔で唇を噛みしめるツナに、クロームはぽつりと言葉を紡ぐ
「……私だって、守られるばかりじゃいたく、ない」
立ち上り、ツナらを見るクロームは泣きはらした目をしているが、眼差しは決して弱くない
「私のせいで…うぅん、私を守ってくれた、ユキエのためにも…進みましょう、ボス。笑ってくれた、ユキエのためにも…」
最期、辛いだろうにそれでも笑みを浮かべてくれた彼女のためにも、ここで立ち止まるわけにはいかない
「そう、だよね…。うん、」
愛結を助けるために、ユキエは命がけで道案内をしてくれた、その意思を蔑ろにするわけにはいかない
この地に先行していたエクソシスト達がこちらに向かってきているのを見て、ツナはぱちんと自分の頬を叩き気合を入れ直す
「…行こう」
歩き出したツナたちの後ろで、砂が風に吹かれて小さく舞う――そう、まるで応援するかのように
前に進む
その犠牲を無駄にしないために!
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