悲しき詩 | ナノ




51



「チッ…もう始まってんのか…」


言葉を失うアレンの背中から降りたユキエは、ふらつきながらも自分の足で立った


「ユキエ…もう大丈夫なの…?」


「ぜんっぜん大丈夫じゃねーけど…ここで動けなくなるワケにはいかねーからな…今伯爵様からの命令も弱くなったし、動くしかねーよ」


頭を押さえながらも普通に会話ができてクロームらは安心するが……ユキエが小さく付け加えた言葉を聞き取ることはできなかった


「……どのみち、オレはもう長くはないしな…」


「…?ユキエ、何か言いましたか?」


「…何にも言ってねーよ、弟子」


笑顔を作って"いつも通り"アレンらと会話をするが……ユキエは、己の限界が近いことに気付いていた

ユキエら改造アクマも、アクマの本能である"殺人欲求"を抑えることはできない

その欲求が限界…つまり耐えられなくなった時が、自分たちの最期だ

クロスが付けた自爆装置が発動する仕組みとなっている

――もうとっくに、ここにいるはずの川村とサチコの気配がないことにも、気付いていた


「気ィ引き締めろよ、ここは"江戸"だ」


微かに聞こえてくる戦闘音から、恐らくサチコが連れてきたエクソシストたちがアクマかノアらとの戦いを繰り広げていることが想像できる


「ねぇユキエ…あの浮かんでるのって、何…?」


クロームが指差すのは、空に浮かんでいる巨大な城


「さァ?」


「さぁ、って…」


「何でも知ってるわけねーだろ、女。オレはその辺にいるようなアクマだったんだぞ」


呆れたように言われてしまっては何も言えない


「とにかく行くぜ」


その言葉に、ツナは拳を握り、クロームは三叉槍を構え、アレンは神ノ道化を発動させる

その様子を見てユキエはこくりと頷いた後、音が響く方角へと走り出した



タッタッタッタ……



何もない平地を走っていくにつれて、微かに聞こえていた音がどんどん大きくなっていく


「元々"江戸"とは平地だったのでしょうか…」


「いや、建物が普通に建っていたさ。恐らく伯爵様の力で全て消し去ったんだろ…あの方は、それだけの力がある」


――江戸を消すことぐらい、千年公にとっては大した労力ではない


「…!皆さん、あれを見て下さい!!」


アレンが指差す方角に見えたのは……光り輝く、巨大な結晶らしき物体


「……っ、何…?」


「クローム!?」


「、何か、聞こえる……」





[ 220/461 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -